見た目はまだ元気な「感染者」を見分けたい理由

ゾンビ映画では、見た目はまだ普通に歩いているのに、じつは中で“ゾンビ化”が進んでいる感染者がよく出てきます。
観客だけが「その人、すでにやばい」と知っていて、まわりの人たちは気づかない、あのじわじわした怖さです。
現実の世界で、そんなふうに「外から見ると元気そうな段階」を見分けることはできるのでしょうか。
もちろん映画のように一瞬でゾンビになることはありませんが、「見た目より少し早く、体の内側の変化をとらえたい」という発想そのものは、感染症の研究現場でもとても切実なテーマです。
特に狂犬病は、いったん発症するとほぼ致死的なウイルス感染症で、人にも動物にもとても危険な病気です。
コラム:ゾンビ映画と狂犬病
ゾンビパニック映画に出てくる「噛みつきでうつる謎のウイルス」は、実はかなりの部分が現実の狂犬病をモデルにしています。狂犬病ウイルスは脳に入り込んで炎症を起こし、性格や行動を大きく変えてしまいます。人や動物はふだん穏やかでも、発症すると急に攻撃的になったり、理由もなくうろつき回ったり、相手に噛みつこうとしたりします。映画のゾンビのように「噛みつき」が主な感染経路になっているのも同じです。また、狂犬病には数週間から数か月の潜伏期間があり、そのあいだは見た目がほぼ健康なこともありますが、いったん発症するとほぼ助からないという点も、「気づいたときには手遅れ」というゾンビものの絶望感とよく似ています。水を極端に怖がる「恐水症(こわいほど水を嫌がる症状)」や、音や光に過敏になってパニックを起こす姿も、フィクションのゾンビ的な描写をそのまま現実にしたような様相を見せます。
ヨーロッパでは赤キツネが長年ウイルスの「貯蔵庫」の役割を果たしてきました。
狂犬病の研究には、どうしても動物実験が伴いますが、高リスクのウイルスを扱う施設では、人が動物に近づく回数をできるだけ減らさなければなりません。
しかし狂犬病の症状がはっきり見えてくるのはたいてい死の数日前で、それ以前は「なんとなく元気がない」程度に見えることが多いと報告されています。
つまり「近づいてじっくり観察すること自体が危険」と「人間の肉眼では死ぬ直前まで感染個体が明確にわからない」という最悪の組み合わせです。
そこで今回の研究者たちは、赤ギツネの体の中にインプラントを埋め込み、体温と動きのデータだけから狂犬病の症状の出始めを早く捉える方法を確かめることにしました。
もし実現すれば、見た目はまだ普通なキツネたちの「体内で静かに進む狂犬病」や「それによる動物の苦しみ」を行動分析だけで特定できるかもしれません。
























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