昆虫なのに「自分で熱を作って」マイナス6度の雪原で生きるハエがいると判明
昆虫なのに「自分で熱を作って」マイナス6度の雪原で生きるハエがいると判明 / Credit: Capek et al., Current Biology (2026) / CC BY 4.0
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昆虫なのに「自分で熱を作って」マイナス6度の雪原で生きるハエがいると判明

2026.04.10 20:00:57 Friday

冬の朝、外に出て数分で指先が動かなくなるあの感覚。

人間でさえそうなのに、昆虫にとっての寒さはもっと深刻です。

昆虫の多くは自分の体温を自力で作る仕組みを持たない「変温動物」で、気温が下がると体内の化学反応が次々と止まり、最後には動けなくなって死んでしまいます。

冬に虫を見かけなくなるのは、ほとんどの虫が寒くなる前に物陰にもぐり、春までじっと眠っているからです。

ところが、その常識をまったく無視している変わり者がいました。

スノーフライ(クモガタガガンボ、学名 Chionea)と呼ばれる、翅を持たない小さなハエの仲間です。

彼らはマイナス6度近い雪の上を、普通に歩き回ってパートナーを探したり卵を産んだりしています。

しかも不思議なことに、雪が解けて暖かくなると、むしろ物陰に隠れて姿を消してしまう。

寒いほうが好きという、昆虫としては完全に逆転した生き方をしているのです。

この小さな虫は、どうやって凍え死なずにいるのでしょうか。

アメリカのノースウェスタン大学(NU)とスウェーデン・ルンド大学(LU)の国際研究チームが、スノーフライの遺伝情報を初めてまるごと解読し、その秘密を徹底的に調べ上げました。

その結果、浮かび上がったのは、ひとつの魔法ではなく、三段構えの凍結防御システムでした。

研究成果は2026年4月6日に『Current Biology』にて発表されました。

Snow flies create their own heat to avoid freezing https://www.eurekalert.org/news-releases/1120797
Coordinated molecular and physiological adaptations enable activity at sub-freezing temperatures in the snow fly Chionea alexandriana https://doi.org/10.1016/j.cub.2026.02.060

体液の中に「不凍液」を持っている【1つ目の防御策】

スノーフライは寒さに強く南極などの極寒の地でも生息できる
スノーフライは寒さに強く南極などの極寒の地でも生息できる / Credit: Capek et al., Current Biology (2026) / CC BY 4.0

ひとつ目の武器は、体の中に内蔵された不凍液です。

寒い地方で車に乗る人ならご存じのように、冬のエンジン冷却水には不凍液を混ぜます。 水がそのまま凍ればエンジンが割れて壊れてしまうからです。

スノーフライは、それとそっくりなことを自分の体の中でやっていました。

彼らのゲノムを解読したチームは、体液の中に「不凍タンパク質」と呼ばれる特殊なタンパク質を作る遺伝子を発見しました。

このタンパク質の役目は、氷の粒にぺたりと貼りついて、氷が大きく育つのをブロックすることです。

ここで大切なのは、生き物が凍えて死ぬ本当の原因は「冷たさ」そのものではないということです。

本当の原因は、細胞の中で氷の結晶が育ち、その尖った刃先が細胞の膜をザクザクと切り裂いてしまうことにあります。

不凍タンパク質は、その針が伸びないように一本ずつ押さえつける、細胞の用心棒のような存在なのです。

面白いことに、このタンパク質は南極の魚が持っているものとよく似た構造をしていることが知られています。

魚と虫というまったく別々に進化してきた生き物が、同じ「凍結を防ぐ」という難問に対して、そっくりな答えにたどり着いているわけです。

研究チームはこの仕組みが本物かどうかを確かめるため、スノーフライの不凍タンパク質の遺伝子を普通のショウジョウバエの幼虫に組み込む実験を行いました。

結果、本来なら凍結で死んでしまうはずの条件でも、改造されたショウジョウバエの幼虫はしぶとく生き残ったのです。

遺伝子一つを持ち込むだけで、寒さに弱い虫が寒さに強くなる──それは、この不凍タンパク質が単なる飾りではなく、本当に命を守る実力を持っている証拠でした。

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