「取れるのにとらない状況」をいつまで耐えられるか?

チェスや将棋では、互いの駒がにらみ合いになり、ある一手によって連鎖的に駒の取り合いに発展するような場面が多く起こります。
たとえば目の前に、取れそうな相手の駒があるとします。
しかし、それを取ると、今度はこちらの駒が取り返されてしまい、その相手の駒を、さらに別の味方が狙っている――。
1つの駒取りをきっかけに、取っては取り返すやりとりが連鎖的に起こり得ます。
こうした関係があちこちに重なると、ひとつの駒だけを見て次の手を決めるわけにはいきません。
ひとつの取り合いをきっかけに、別の場所の攻防まで動き出す可能性があるからです。
特に初心者ならば、こうしたにらみ合いの緊張に我慢できないことも多いでしょう。
たとえば将棋なら「角の道をお互いに開けあった瞬間、相手の角を一気に取りに行ってしまう」という場合もあるかもしれません。
(※実は筆者もそうでした。角道が開くとすぐに相手の角をとり、角交換をしてしまいます)
しかしこうした誘惑は、決して素人だけのものではありません。
遥かに高度なレベルにあるプロでも「駒を取り合って状況を変えるか、それとも互いににらみを利かせたまま、別の手を指すか」といった判断は常に行っています。
こうした「取れる・取られる」関係が、決着のつかないまま盤上のあちこちで絡み合っている状態を、チェスでは「緊張(テンション)」と呼びます。
ではAIはどうなのでしょうか?
現在、チェス用の専門AIに人間が勝つのはほぼ不可能になっています。
将棋においても、人間のトッププレーヤーがAIに勝てる見込みはほぼありません。
定番の説明は、「AIは人間よりはるかに速く、深く先を読めるから強い」というものです。
確かにその説明は事実です。
ただ「人間より速く深く先を読める」というAIの性質が、盤面の上において、どんな姿で現れてくるかは、意外とわかっていませんでした。
そこで今回研究者たちは、チェスにおける「緊張」という概念に着目しました。
人間とAIの差が「いつ整理し、どこまで残すか」という部分に出てくるかもしれないからです。






























