人間は定跡が尽きると緊張を早々に解消しようとするがAIは違った

取り合いの連鎖をギリギリ踏みとどまる「緊張」の状態について、人間とAIで扱いの差はあるのか?
謎を解明するため研究者たちはまず、トップクラスの人間の1200戦のデータと、Stockfish(ストックフィッシュ)などの強力なチェスAI同士の1200戦のデータを用意しました。
次に研究者たちは、一手ごとに盤面を「駒の関係図」へ置き換えました。
相手の駒を取れる関係、味方が取られたら取り返せる関係、さらに空きマスへのけん制といったつながりの構造から、戦略的緊張の強さを計算したのです。
すると、人間同士とAI同士で興味深い違いが見えてきました。
序盤から中盤にかけて、互いの駒が近づくと、人間もAIも「緊張」のパラメータは上昇していきます。
しかも、一時的なピークは人間のほうがAIを上回っていました。
ところが、その後、人間の対局では緊張が比較的急速に下がっていきます。対照的に、AI同士の対局では下がり方が緩やかで、攻防が絡み合う状態が長く残りました。
ある意味でAIは何手もかけてじわじわ効いてくる有利を盤面のあちこちに散らしたまま、張りつめた局面を長く保ち続けるように戦っていたと言えるでしょう。
複雑な局面は人間同士の戦いでも作れますが、違いはそれをどれだけ持続するかにあったのです。
この差は、駒を取る頻度にも表れています。
主な比較対象で、駒を取る手の平均的な割合は、人間が20.2%だったのに対し、AIは13.0%でした。人間同士の対局のほうが、より頻繁に駒を盤上から取り除いていたわけです。
そのため、AI同士の対局には、平均するとより多くの駒が残っていました。そして攻撃や守りのつながりも、盤面に広く保たれていたのです。
では、なぜ人間も序盤には高い複雑さを保てたのでしょうか。
研究チームは、その背景に、長年研究されてきた序盤の指し方があると考えています。トップ選手は有力な手順を深く研究し、覚えています。いわば、複雑でも「よく知っている道」なら進めるのです。しかし、覚えていた展開を離れ、自分で先を読む段階になると、盤面を整理する傾向が強まると解釈しています。
研究著者のヴィト・D・P・セルヴェディオ氏は「違いは、複雑さの扱い方にあります。人間はすばやく減らしますが、AIは維持できます」と述べています。






























