AIがチェスで圧勝する理由の一端が見えてきた――「ややこしいまま耐える」時間が人間より長い
AIがチェスで圧勝する理由の一端が見えてきた――「ややこしいまま耐える」時間が人間より長い / Credit:Canva
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AIがチェスで圧勝する理由の一端が見えてきた――「ややこしいまま耐える」時間が人間より長い (2/3)

2026.09.22 21:00:02 Tuesday

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人間は定跡が尽きると緊張を早々に解消しようとするがAIは違った

人間は定跡が尽きると複雑さを解消しようとするがAIは違った
人間は定跡が尽きると複雑さを解消しようとするがAIは違った / 右のグラフは、対局が進むにつれて盤上の緊張がどう変わるかを示しています。 緊張(Tension)は、駒どうしが「取れる・取られる」関係でどれだけ絡み合っているかを表す値で、高いほど盤面がややこしい状態です。 横軸のPly(プライ)は、白か黒のどちらかが1回指すごとに1と数える単位で、150プライで両者が75手ずつ指したことになります。 青系が人間のトップ棋士、赤系がAIで、色の薄いほうが引き分け、濃いほうが勝敗のついた対局です(各1200局)。 序盤はどちらも一気に緊張が高まり、頂上(40〜60プライ付近)では人間のほうがわずかに高くなっています。 差がつくのはその後です。 人間の曲線は60プライを過ぎると急な下り坂になり、100プライ(両者50手ずつ)ではAIより目に見えて低くなります。 AIの曲線はなだらかに下るだけで、ややこしい盤面を長く保ち続けます。 しかも人間は引き分けの対局ほど早く緊張を手放しますが、AIは勝敗にかかわらず、ほぼ同じ高さを保っています。 なお、右端で人間の曲線がギザギザしているのは、そこまで続いた人間の対局が少ないためです。 左のグラフは、各時点でまだ続いている対局の割合です。 人間の対局はおよそ7割で勝敗がつき、ほとんどが150プライ(点線)までに終わります。 AIの対局は反対に3分の2ほどが引き分けで、150プライを過ぎても続くものが多く、400プライ近くまで続く対局もあります。Credit: Complexity Science Hub

取り合いの連鎖をギリギリ踏みとどまる「緊張」の状態について、人間とAIで扱いの差はあるのか?

謎を解明するため研究者たちはまず、トップクラスの人間の1200戦のデータと、Stockfish(ストックフィッシュ)などの強力なチェスAI同士の1200戦のデータを用意しました。

次に研究者たちは、一手ごとに盤面を「駒の関係図」へ置き換えました。

相手の駒を取れる関係、味方が取られたら取り返せる関係、さらに空きマスへのけん制といったつながりの構造から、戦略的緊張の強さを計算したのです。

すると、人間同士とAI同士で興味深い違いが見えてきました。

序盤から中盤にかけて、互いの駒が近づくと、人間もAIも「緊張」のパラメータは上昇していきます。

しかも、一時的なピークは人間のほうがAIを上回っていました。

ところが、その後、人間の対局では緊張が比較的急速に下がっていきます。対照的に、AI同士の対局では下がり方が緩やかで、攻防が絡み合う状態が長く残りました。

ある意味でAIは何手もかけてじわじわ効いてくる有利を盤面のあちこちに散らしたまま、張りつめた局面を長く保ち続けるように戦っていたと言えるでしょう。

複雑な局面は人間同士の戦いでも作れますが、違いはそれをどれだけ持続するかにあったのです。

この差は、駒を取る頻度にも表れています。

主な比較対象で、駒を取る手の平均的な割合は、人間が20.2%だったのに対し、AIは13.0%でした。人間同士の対局のほうが、より頻繁に駒を盤上から取り除いていたわけです。

そのため、AI同士の対局には、平均するとより多くの駒が残っていました。そして攻撃や守りのつながりも、盤面に広く保たれていたのです。

では、なぜ人間も序盤には高い複雑さを保てたのでしょうか。

研究チームは、その背景に、長年研究されてきた序盤の指し方があると考えています。トップ選手は有力な手順を深く研究し、覚えています。いわば、複雑でも「よく知っている道」なら進めるのです。しかし、覚えていた展開を離れ、自分で先を読む段階になると、盤面を整理する傾向が強まると解釈しています。

研究著者のヴィト・D・P・セルヴェディオ氏は「違いは、複雑さの扱い方にあります。人間はすばやく減らしますが、AIは維持できます」と述べています。

次ページ人間もAIも強くなるほど緊張を積み上げる

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