イッカクの角は何でできているのか?
先ほども少し触れましたが、イッカクの「角」とされる部分は本当は「牙」、つまり歯です。
その骨格を見ると、左下の犬歯が伸びたものであることがわかります。歯が上唇を突き破り、出てきた部分が角のように見えているのです。
ごく稀に、1本ではなく両側の犬歯が伸びて二本の「角」を持つイッカクもいることが報告されています。
イッカクの角の組成は一般的な「歯」とほぼ同じなのですが、唯一異なるのが「エナメル質がない」という点です。
エナメル質は歯の一番外側に当たる部分で、歯の神経が直接外界に触れないようにする役目を担っています。虫歯でエナメル質に傷がつくと、歯がしみるようになるのはこのためです。
イッカクの「牙」はこのエナメル質がないので、神経がむき出しになっているような状態と考えられています。
角の使いみち
イッカクの角の使い道については色々な説があり、まだはっきりとはわかっていません。
前述のようにイッカクの角は神経がむき出しの状態となっているため、塩水の濃度や獲物の臭いなどがわかるセンサーとなっている可能性があります。
イッカクはシロイルカと同様、音波を出して対象物の位置を把握する「エコローケーション」が使える生き物ですので、角がそのアンテナとなっているという説もあるようです。
また、イッカクの角にはドリルのようなネジ状の構造をしていることから氷に穴を開けるためにドリルとして使う説もあります。
とはいえ、上記のような生きていく上で大切な役割ならメスに角がないことに説明がつきません。
このため、オス同士がメスを取り合って争う際に、その長さや突き出す角度などで争うという説が最有力となっています。
また、オスの顔には角によるものと考えられる傷がついていることが多いことから長さ比べだけではなく、武器として用いられているのではないかと推測されています。
角の値段はおいくら?
まっすぐに長く延びるイッカクの角は他の動物と異なる独特の形状であるため、古くより様々な用途で珍重されてきました。
中世ヨーロッパではイッカクの角を解毒作用があると言われる「ユニコーンの角」として売ることが横行したほか、東洋にも「竜の角」として販売されたり、漢方薬の材料として用いられたりしたそうです。
そのような事情から乱獲され個体数が減ってしまったイッカクは、現在ワシントン条約によって保護されており、輸出国の政府が発行する許可書がある場合のみ、その角の取り引きが許可されています。
現在の日本においてイッカクの角は装飾品としてわずかに販売されています。根元から1本丸々の状態なら長さにもよりますが30~100万円と非常に高額です。値付として使用される薄くスライスされた状態のものでも1万円以上の値が付いていました。
イッカクの角は象牙などと同様、一度折れたらもう生えてきません。また、非常に俊敏なイッカクの角だけを狙うことは難しいため、角の流通はそのまま個体数減少につながるでしょう。角を狙った密猟がこれ以上増えないことを祈るばかりです。