アブラムシに翅を生やさせて拡散する「寄生RNA」の仕組みを解明!
「寄生RNA(Y-sat)」が最初に発見されたのは、意外にも日本の四国にあるタバコ畑でした。
1980年に日本の研究者が、タバコ農家にとって害となる「葉を黄色くしなびさせてしまう病気」を調べたところ、原因が「キュウリ・モザイク・ウイルス(CMV)」と呼ばれるウイルス感染であることが判明。
さらに調査を進めると、このウイルスの遺伝子内部には、「寄生RNA(Y-sat)」が存在しているとわかりました。
ただ、この寄生RNAが何なのかということは、その当時はよくわからないままでした。
しかし、2010年に行われた新しい研究で、この「寄生RNA(Y-sat)」こそが、タバコの色素に影響を与えて葉を黄色くしている原因だったと判明するのです。
しかし、なぜウイルスの「寄生RNA(Y-sat)」がタバコの葉をわざわざ黄色く変色させるかの理由は謎でした。
黄色になったタバコの葉は光合成ができなくなり、「寄生RNA(Y-sat)」にとっても住処を失うと思われていたからです。
そこで今回、北海道大学の研究者たちは「寄生RNA(Y-sat)がタバコの葉を黄色くするのはアブラムシを引き寄せるため」という大胆な仮説を立てました。
アブラムシは黄色に集まる習性があることが知られており、「寄生RNA(Y-sat)」がこのアブラムシの習性を何らかの方法で利用している可能性があったからです。
さっそく研究者たちはアブラムシを用意し、通常の緑色の葉と「寄生RNA(Y-sat)」によって黄色くなってしまった葉のどちらに集まるかを確かめました。
すると予想通り、アブラムシは黄色の葉に集まることが確認されます。
一方で予想外の発見もありました。
黄色い葉に群がるアブラムシの様子を観察していると、アブラムシの体が通常と異なり赤くなり始め、数日後に翅をはやすことを発見したのです。
アブラムシは条件によって翅を生やすこともありますが、今回の場合はその割合は通常より多いものでした。
アブラムシたちが「寄生RNA(Y-sat)」に感染した黄色い葉から何らかの影響を受けていることは明らかのようです。
そこで研究者たちは「寄生RNA(Y-sat)」を直接、アブラムシに与えてみたところ、アブラムシの体を赤くする効果があると判明。
さらに「寄生RNA(Y-sat)」を与えたアブラムシの遺伝子活性を調べたところ、翅の形成にかかわる遺伝子の働きが活性化していることが判明します。
また「寄生RNA(Y-sat)」がアブラムシの体内でどのような活動をしているか調べたところ、「寄生RNA(Y-sat)」が小さなRNA(sRNA)を合成し、アブラムシの遺伝子活性をハッキングして調節していることが示されました。
この結果は「寄生RNA(Y-sat)」がアブラムシの遺伝子を制御し、翅を生やすなどの体の変化を引き起こしていることを示します。
研究者たちは「寄生RNA(Y-sat)」がアブラムシに翅を生やさせるのは、アブラムシの活動範囲を広げ、アブラムシの体内に存在する宿主のウイルス、そしてひいては自らの拡散に役立つからだと考えています。