もっとも太陽に近づいた観測
パーカーソーラープローブは、これまででもっとも太陽に近づいて観測を行うため2018年に打ち上げられました。
そこから3年(計画の構想段階から数えたら数十年)の歳月をかけ、とうとう探査機は太陽大気圏に到達したのです。
地球のような岩石惑星とは異なり、太陽には固体の表面がありません。
しかし、その周辺には加熱された大気があります。
コロナと呼ばれるこの大気は、重力と磁場によって太陽と結合した太陽物質であり、紛れもない太陽の一部です。
ではどこまでが太陽の一部で、どこからが宇宙とみなされるのでしょうか?
太陽の大気が熱と圧力によって上昇し太陽から遠ざかっていくと、太陽の重力と磁場では粒子をつなぎとめておけない臨界点が現れます。
ここが太陽大気圏と宇宙空間の境界であり、アルヴェーン臨界面と呼ばれます。
これより外側へ飛び出した太陽物質は、太陽の一部ではなく太陽風と呼ばれるようになり、地球を超えてはるか太陽系の外側まで太陽の磁場の影響を届ける自然現象の一部となります。
ただ、これまで研究者たちは、このアルヴェーン臨界面がどのあたりにあるのか正確に把握していませんでした。
離れた場所から観測した場合、この臨界面はぼやけてしまうため、太陽表面から10~20太陽半径(約690万km~1390万km)の範囲と推定されているだけだったのです。
パーカーソーラープローブは、太陽の周りを何度も周回しながら接近するフライバイを行っており、ちょうどこの20太陽半径の辺りを飛行していたため、アルヴェーン臨界面を超えて、太陽コロナへ突入する可能性がありました。
そのため、パーカーソーラープローブにまず期待されていたのは、太陽の大気圏であるコロナと宇宙の境界を見定めることでした。
そして、2021年4月28日、パーカーソーラープローブは、8回目の太陽フライバイで、太陽表面から18.8太陽半径(約1300万km)の位置で、研究者がアルヴェーン臨界面と特定する条件に遭遇し、人類史上初めて探査機が太陽大気圏に入ったことが認められたのです。
プロジェクトの副最高技術責任者ジャスティン・カスパー(Justin Kasper)氏は、「遅かれ早かれコロナに突入することは期待していましたが、それがすでに達成されているとわかった瞬間は非常にエキサイティングでした」と語っています。
そして、パーカーソーラープローブは太陽のコロナを内部から撮影することに成功するのです。