14世紀に始まった地球の小氷期
一般的なイメージでは、氷河時代(氷河期)というと吹雪の中をマンモスが歩き回り、地球全土が凍結しているような寒い時代を思い浮かべてしまいますが、科学的な分類は少し異なります。
氷河時代を定義する研究は、主に雪氷学という分野が行っていますが、それによると氷河時代は北半球と南半球に巨大な氷床が存在している時代と定義されています。
現代は、南極やグリーンランドに巨大な氷床があり、この定義に当てはまるため地球の歴史の中では氷期にあたるのです。
氷期の中でも寒暖差は、現代は氷期と氷期の間にある間氷期と呼ばれる比較的温暖な時期にあたります。
しかし、そんな中でも急激に寒冷化が進む時期が存在します。
そして、過去1万年間の中でも非常に寒さが厳しかった「小氷期」と呼ばれる時代が、ほんの600年前から100年前という、つい最近起こっていたのです。
厳密な期間についてはいくつか議論がありますが、それはだいたい13世紀末から19世紀にかけて続いていたと考えられています。
この期間、人類は非常に厳しい寒さのために、作物の不作や漁が行えないなどの飢饉や、パンデミックに遭い、何百万人もの人々が悲惨な死を遂げたとされています。
こうした状況は、絵画の中にも現れているといいます。
16世紀の絵画には一面雪に覆われ、凍結した川や池でアイススケートを楽しむ人々の姿が描かれています。
現代の感覚で言えば、いくら凍結しているとはいえ、池でアイススケートをしたり、凍結した川を歩いて渡るのは危険な感じがします。
しかし、14世紀から20世紀にかけては、寒冷化が進んでいたため、冬は川が完全に凍結した状態の場所が多くありました。
18世紀のアメリカでも、ニューヨーク湾が完全に凍結し、マンハッタンから南にあるスタテンアイランドまで凍った海の上を歩いて渡ることさえ可能だったといいます。
では、なぜ地球はそれほど寒い気候に変化したのでしょう?
そのメカニズムは、ずっと未解決の疑問となっていました。
ただ、この小氷期が始まるすぐ前は、地球は温暖な気候にあり、「中世の温暖期」とも呼ばれていたのです。
今回の論文の主執筆者であるマサチューセッツ大学のフランソワ・ラポワント(Francois Lapointe)氏とレイモンド・ブラッドリー(Raymond Bradley)氏は、北大西洋海面水温の3000年間の遷移を慎重に調査し、2020年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表しています。
このとき彼らは1300年代後半の非常に温かい時期から、わずか20年で前例のない寒冷状態へ突然気候が変化していたという驚きの事実を見つけたのです。
暖かかったはずの地球になぜ、そんな急激な気候変動が起きたのでしょう?
研究者はその理由が、この温暖な気候にあったというのです。