マイナーな研究を取り巻く問題
おそらくほとんどの人が、今回の「超放射相転移」という現象をはじめて聞いたのではないでしょうか?
この現象は何なのだろうと、Google検索を試した人は、たぶん今回の研究発表者である馬場基彰氏に関連した、インタビューや論文しか見つけられないでしょう。
実はこの現象を研究しているのは、現在日本では馬場氏のグループだけであり、世界的に見ても、アメリカやイギリスなどいくつかの代表的な国に1つずつくらいしか研究グループはないようです。
ともかくマイナーな研究分野なのです。
そして、そんなマイナーな現象に着目する研究者は、かなりの苦労を強いられています。
世の中の多くの人たちは、時間が経てば科学は勝手に発展していくように感じている人も多いでしょうが、ほとんどの問題は、そこに興味を向ける研究者がいなければ進展しません。
たまに科学ニュースを見ていて、こんな現象が未だに解明されていなかったの? という話を聞くこともありますが、それは興味を向けてしっかり研究を行う人がいなかったためです。
イグノーベル賞などを見ていると、科学研究は奔放で自由に、興味の向くまま行われている印象を受けるかもしれませんが、専門性の高いマイナーな研究はそうもいかなくなります。
研究を行うためには、その研究を許可してくれる研究機関に所属する必要があり、研究の意義を認めてもらって研究費を集める必要があります。
ところがマイナーな研究には、研究の許可を出す研究機関も、その研究にお金を出すスポンサーもほとんど見つけられません。
特に現在の研究者には、産業発展に役立つ成果や、社会にイノベーションを起こすよう成果が期待されていて、それ以外の研究にはお金が集めにくい問題があります。
研究者の多くは研究費が集めにくい研究や、注目度が低くキャリアになりにくい研究に関わることは忌避するため、結局注目されない分野はどんどん発展や解明が遅れてしまうのです。
今回の研究者である馬場氏も、このどマイナーな「超放射相転移」を始めるのにかなり苦労したことを語っていて、自民党が発足させた「科学技術基本問題小委員会」の関係者に意見書などを出して、現在の研究を行う下地を整備していったようです。
こうした問題が起きてしまう根底には、日本では一般の人がほとんど科学に興味を向けていないため、こうした研究者たちをサポートしようという機運が起こらないことにもあるようです。
今回の研究について馬場氏は、「夢物語」と前置きして将来的な展望では、こうした現象が熱から直接光を取り出すような、非常にロスの少ないエネルギー変換に役立つ可能性を指摘しています。
また超放射相転移で起きる磁気的な波は、特殊な量子論的状態となるため、量子センシングや量子コンピューティングなどの量子技術への応用が期待できるといいます。
発見当時はなんの役に立つのかよくわからない現象も数多くありますが、それが後の世で重要な意味を持つ例は少なくありません。
マイナーな現象に着目する研究者は、もっと評価されていい存在かもしれません。