当初は「アノマロカリスの仲間」と勘違いされていた
地球の海は、5億4100万〜4億8500万年前のカンブリア紀に初めて生物多様性を開花させました。
この出来事は「カンブリア爆発」と呼ばれ、今あるすべての主要な動物群の祖先が誕生した時期でもあります。
またカンブリア爆発は、世界初の恐るべき頂点捕食者をも生み出しました。
この肉食の殺し屋は、頭部の下にあるノコギリ状の口吻にちなんで、ラディオドンタ類と称されます。
その代表たるアノマロカリスは、頭の先についたカギ爪のような器官で獲物をとらえ、飢えた口へと運んでいました。
そして今回、新種のオパビニアとして特定された化石は、もともとアノマロカリスの仲間として勘違いされていたのです。
2008年、米国ユタ州にあるカンブリア紀の地層から見つかった「ウタウロラ・コモサ(Utaurora comosa)」は、見た目の類似性からラディオドンタ類に分類されていました。
しかし、ハーバード大の古生物学者で、本研究主任のスティーブン・ペイツ(Stephen Pates)氏は「ラディオドンタ類とはどうも違うのではないか」と考えたといいます。
ウタウロラ・コモサの化石は、体長1インチ(約2.5センチ)と小さく、体がオパビニア・レガリスと同じように14か15の体節に分かれていました。
これらの形態的特徴は、ラディオドンタ類よりもオパビニアを彷彿とさせたのです。
そこでペイツ氏と研究チームは、ウタウロラ・コモサの化石を再分析し、125の形質を、現存および絶滅した節足動物の50以上のグループと比較。
その結果、ウタウロラ・コモサの形質のうち、ラディオドンタ類に当てはまるものはほとんどなく、むしろオパビニアに酷似することが判明したのです。
こちらが、オパビニア・レガリスとウタウロラ・コモサを比較した図になります。かなり似ているのが分かるでしょう。
これより、ウタウロラ・コモサはラディオドンタ類ではなく、オパビニア類の新種として正式に記載されました。
ペイツ氏は「オパビニア・レガリスは唯一のオパビニア類ではなく、本グループは、私たちが考えていたよりずっと多様だった可能性がある」と述べています。
ウタウロラ・コモサの生息年代は、オパビニア・レガリスの数百万年ほど後と分かっています。
また、「両者の後方を向いた口吻や分節化した胴体から、現代の節足動物の明らかな前身であるように思われる」とペイツ氏は付け加えました。
ウタウロラ・コモサの仲間入りにより、オパビニアだけでなく、甲殻類や昆虫などの進化史についても理解が深まるかもしれません。