爪を大きくするため、中身の筋肉量を減らしていた
同じ動物でも体の大きな個体は一般的に、小さな個体よりもエネルギーに余裕があるため、体全体に占める武器の割合を大きくできます。
とはいえ、シオマネキは非常に極端です。
シオマネキのオスは、片方の爪が異常に大きく、それをもってライバルとの争いやメスへのアピールに使っています。
このシオマネキの大きな爪は、体の小さなオスでは体重の35%ほどですが、大きなオスになると体重の半分以上を占めほど巨大化します。
本研究には参加していないスミソニアン熱帯研究所(STRI・パナマ)のウマット・ソムジー(Ummat Somjee)氏は「それは体の半分がボクシンググローブでできているようなものだ」と表現します。
またテッポウエビも、オスメスともに片方の爪が大きく発達しており、すばやい爪パッチンで水流のジェットを放ちます。
体に対して異様に大きな爪を持つ彼らですが、生理学的な視点から見た場合、これは非常に不可解です。
なぜなら、彼らは体を作るエネルギーの多くを極端に爪に投資している状態であり、これを維持費し続けることはかなり困難に思えるからです。
このことは生物学者たちにとって、長年の謎となっていました。
そこで今回の研究チームは、アメリカ南東部・ノースカロライナ州にて、数百匹のシオマネキとテッポウエビ2種を採取して、死んだ個体の体と爪の質量を計測。
さらにその後、爪の中身(筋肉や神経などの軟組織)だけを消化する酵素にさらし、外骨格だけを再び測定しました。
結果、3種ともに爪が大きくなるほど外骨格だけが多くなり、軟部組織が少なくなることがわかったのです。
反対に、小さな爪の方が身がしっかり詰まっていました。
その差はかなり大きく、大型のオスのシオマネキの爪には、小さなオスの爪に見られる筋肉量の半分以下しか含まれていなかったのです。
これについて、研究主任のジェイソン・ディン(Jason Dinh)氏は、こう説明します。
「彼らが代謝コストを負担できる方法のひとつは、武器を安く作ることが理由とわかりました。
というのも、節足動物の外骨格の主成分であるキチンは、筋肉や神経、血液に比べて、維持するためのコストがはるかに低いのです。
彼らは高価な筋肉の代わりに、外骨格に多くを投資して爪を大きくしていたのです」
確かにジャンボサイズの爪は、ライバルたちに警戒心を抱かせますが、これは単なる伊達や酔狂でやっているわけではありません。
筋肉量を減らしてでも爪を巨大化させるメリットが、シオマネキにはあるのです。
大きな爪は筋肉量が少ないにもかかわらず、小さな爪より強く挟むことができるのです。
ただ一方で、テッポウエビの大きな爪については、筋肉量を減らしてまで巨大化させるメリットがあるのかどうかわかっていません。
なぜなら、彼らの爪パッチンのバネの強さはもっぱら、筋肉や神経に頼っているからです。
研究チームは今後、テッポウエビが爪を大きくさせるメリットを調べるとともに、実際に戦闘やメスへのアピールに寄与しているのかを解明する予定です。
それから、同じ戦略を取る生物は、カニやエビだけではないかもしれません。
自然界には、爪のほかに牙や角など、さまざまな武器を使ってライバルを威嚇する動物がいます。
チームは「巨大な武器の低コスト化」という戦略が、動物界でどれほど一般的であるかについても調査したいと考えています。