固体でも液体でもない「超イオン状態」
超イオン状態というのは、「液体」「固体」の両方の性質を持ったような奇妙な新しい物質の相のことです。
極端な圧力と温度を持った環境下では、水分子の水素原子と酸素原子の結合が強い熱によって溶かされます。
そして酸素原子は強力な圧力によって固体のように規則正しい結晶に再配列され、この酸素原子で構成された格子内を水素イオンが液体のように流れる状態になるのです。
これが超イオン状態と呼ばれる、特殊な物質の状態です。
2021年に科学雑誌『Nature Physics』で発表された研究では、海王星や天王星のような巨大氷惑星の内部は、超イオン水である可能性が示されていました。
今回の研究チームは、地球内部も極端な高温高圧状態であるため、同じような超イオン状態が存在する可能性があると考えたのです。
超イオン状態を作るには、軽元素が含まれている必要がありますが、これについて、中国科学院地球化学研究所のホー・ユ(何宇:He Yu)氏は次のように説明します。
「炭素、酸素、水素などの軽元素は太陽系でももっとも豊富な化学物質であり、地球形成時に内核に取り込まれた可能性があります」
コンピュータシミュレーションと地震波による測定データを通じて、ホー氏と研究チームが、この可能性について調査したところ、地球内核の鉄合金は、軽元素を含んだ場合、天王星などの超イオン水と同様に振る舞うことがわかりました。
拡散性の高い軽元素は、地震波の速度に影響を与える可能性があり、これがせん断波の大幅な速度低下の原因となっている可能性があります。
そのため、現在の観測されている地球内部を伝わる地震波の振る舞いは、超イオンモデルで説明可能だというのです。
もし地球の内核が、鉄元素の格子内を軽元素が液体のように流れる超イオン状態だった場合、これは地球磁場の発生方法に関する新しい理解を提供する可能性があり、ポールシフトのような現象についても新しい洞察が得られるかもしれません。
私達の足元は、遠い宇宙以上に未開拓のフロンティアになっていると、研究者は語ります。