氷河と火山、見えない力のせめぎ合い
「氷が溶けると火山が噴火する?」
一見、つながりのなさそうなこの2つの自然現象が実は密接に関わっていることは、1970年代のアイスランドの研究ですでに指摘されていました。
地球の地殻は、思ったよりも柔らかく、上に乗る氷河の重みによって大きく変形します。
重たい氷が地面を押しつけている間は、地下のマグマやガスは圧縮され、簡単には噴き出せません。
しかしその重たい氷が急速に融けてなくなると、地殻にかかっていた圧力が一気に解放され、地下のガスやマグマが膨張します。
その結果、地中深くにたまっていたマグマが爆発的に噴出するのです。

今回の研究では、チリ南部にある6つの火山――その中には現在は休止状態の「モチョ・チョシュエンコ火山」も含まれます――を対象に、過去の氷期と噴火の関係を調査しました。
究チームは、火山岩に含まれるアルゴンガスを年代測定に利用し、さらにマグマ中で形成された鉱物結晶を分析することで、過去の火山活動の履歴をたどりました。
すると、約2万6000年前から1万8000年前の最後の氷期の最盛期において、氷河が噴火を抑え込んでいたことが判明しました。
その間、地下にはシリカに富んだ大量のマグマが、地表下10〜15キロメートルの深さに静かに蓄積されていたのです。
そして氷期が終わり、パタゴニア氷床が急速に融解しはじめると、地下の圧力が解放され、一気に噴火が発生。
それがモチョ・チョシュエンコ火山の形成につながったと考えられています。
こうした「氷河の後退→マグマ膨張→爆発的噴火」という一連のメカニズムは、火山と氷河が重なる場所すべてで起こりうるといいます。
そしてその範囲は、決してアイスランドや南アメリカにとどまりません。