昆虫は空間をイメージできているのか?
夜行性もしくは暗所で生活する動物は、視覚よりも触覚(触刺激による感覚)に頼って行動しています。
例えば昆虫は頭部に長いアンテナ(触角:「触覚」と紛らわしいため以後「ショッカク」)が生えており、このショッカクを動かすことで物体の存在を検知できます。
しかし、触覚で「物体を検知できる」だけでは、「周囲を認識できている」とは言えません。
人間の例で考えてみましょう。
私たちは、非常に熱い物体を触ると反射的に手を引っ込めます。
これは「反射」と呼ばれる機能であり、強い刺激を受けたときに瞬時に生じる体の反応です。
また、後ろから急に自分の体を触られると、どう反応するでしょうか。きっと逃げる方向に、ビクッと体が素早く動くはずです。
これらは確かに物体を検知している証拠ですが、頭の中で「熱い物体の形」や「触ってきた手の大きさ」をイメージしているわけではありません。
対称的に、私たちが暗闇で手を伸ばして壁や物を触っているときには、頭の中で周囲の空間をイメージしています。
単純に触れた感覚だけで終わるのではなく、その結果から空間の構造を認識して、正しいルートを導き出し、障害物を避けて移動できるのです。
お寺にある「胎内めぐり」などを経験したことがある人は、こういう感覚がよくわかるのではないでしょうか。
つまり触覚に基づいた行動には、「反射」と、「空間認識」のイメージの2つがあるのです。
これまでの研究では、昆虫がショッカクを使って物体を検出し、逃避行動に結びつけることは分かっていましたが、これが単なる反射なのか、それとも空間を把握した結果なのかは判別できていませんでした。
そこで研究チームは、コオロギで実験を行い、昆虫がもつ空間認識能力の有無を確かめることにしました。