「自然腐敗」と「人為的ミイラ処理」の違いをシミュレーション
今回の調査では、遺体が自然に腐敗するプロセスの知識をもとに、姿勢(身体部位の位置)や軟組織、関節の状態を参照しながら、「自然腐敗」と「人為的ミイラ処理」のどちらであるかを検証しています。
具体的には、法医人類学の手法を使って、「自然腐敗」と「ミイラ処理」における遺体の腐敗プロセスの違いをシミュレーションしました。
たとえば、下の画像は、ミイラ化の手法の一つとして、肉付きのよい遺体を、姿勢維持のためにヒモで棒に固定させた場合のシミューションです。
左が1日目で、中央が3週間後にあたり、ヒモの締め付けと軟部組織の乾燥で、体積が減少しています。
右は7カ月後を示し、この段になると体積がさらに減少し、骨の屈曲も大きくなっています。
次の画像は「自然腐敗」と「ミイラ化」の違いをシミュレーションしたものです。
上段が自然腐敗における遺体の変化です。左が埋葬時の状態、真ん中が2年2カ月後、右が最初の埋葬時の姿勢と、最終的な骨の位置を重ねたものを示します。
下段はミイラ処理された遺体の変化です。左は7カ月の自然乾燥後(うち最初の3週間でヒモの固定)の姿勢、真ん中は3年2カ月後、右は最初の姿勢と最終的な骨の位置です。
これらを踏まえた結果、写真内の遺体は、人為的にミイラ化された可能性が高いと結論されました。
軟部組織は残っていないものの、ヒザを胸側に折り曲げた姿勢や、骨の周りの堆積物、関節の離断がないことなど、すべてミイラ処理された遺体にみられる特徴でした。
自然腐敗だと、比較的早い段階で関節が離断するといいます。
ここで用いられたミイラ処理について、チームは「自然乾燥した遺体をロープで徐々に締めて、姿勢を望ましい形に整えたのではないか」と推測しています。
この結論が正しければ、世界で最も古いミイラ処理の証拠となります。
それでもチームは「先史時代にはミイラ処理が予想以上に一般的に広まっており、実際にはもっと古い例があるのではないか」と考えます。
ミイラ処理した遺体は組織がもろく、直接的な証拠を入手するのは困難です。
しかし、今回のように高度な技術を使えば、古代の遺骨からミイラ処理の痕跡をつかむことが可能でしょう。
人類は、私たちの考えるよりはるか以前に、遺体の人為的ミイラ処理を発明したのかもしれません。