発見直後に地球に衝突する小惑星
2022年3月11日、UTC19時24分、ハンガリーの天文学者サルネツキー氏がコンコリー天文台の60cmシュミット望遠鏡で明るく輝く動きの速い物体を捉えました。
下はTwitterで公開されている観測時の映像で、白く発光する物体が素早く移動しているのがわかります。
5th Earth impactor from Piszkéstető Obs: 2022 EB5
Yesterday at 19:24 UT an unknown moving objects of 17 mag was found by K. Sárneczky on images from 0.6-m Schmidt telescope. Acquired data 30 min later showed that it was going to collide with Earth in 2 hours time. pic.twitter.com/NdLUcF1MnM— Stefan Kurti (@KurtiStefan) March 12, 2022
サルネツキー氏は小惑星ハンターの異名を持つ、小惑星発見の専門家でハンガリー天文協会(HAA)の理事を務める人物です。
彼は観測した情報を、すぐに小惑星センターへ報告し、さらに約40分後掛けて追加の観測を続けたデータを世界中の天文台へ公開しました。
このデータを元にESA(欧州宇宙機関)は独自システムでその影響について分析し、発見から約1時間後のUTC20時25分に予想を発表。
その内容は、このオブジェクトが地球から約5万km未満の近傍にあり、1時間以内(UTC21時21分から25分の範囲)に地球に衝突する可能性が100%というものでした。
さらに衝突位置は、アイスランド北方の数百kmになるということまで予想されました。
このオブジェクトは、地球衝突の数分前に正式に小惑星「2022 EB5」として命名され登録を受けました。
このときには世界中の天文台が、ほぼ同一の予想を出していて、地球衝突の位置と時間についてはほぼ正確にわかっていました。
残念ながら現在のところ、この小惑星の地球衝突の様子を捉えた映像などは報告されていません。
当時、ここの上空は雲に覆われていたため、研究者たちがこの場所を撮影することは難しく、近傍のヤンマイエン島は今の時期は無人のため、目撃できた人はいない可能性が高そうです。
ただ、現代は誰もがスマホで珍しい現象を撮影できる時代なので、いずれ目撃動画などが報告される可能性もあるでしょう。
目視による衝突は確認できていませんが、小惑星の衝突したという証拠は別の形で報告されています。
これは超低周波音検出器というものの国際ネットワークで検出されたもので、予想地点のアイスランドとグリーンランドの間で予想時刻にTNT 3kt(キロトン)に相当するエネルギー放出が確認されました。
Impact! When 2022 EB5 struck the Earth north of Iceland this morning, it became the 5th asteroid to be discovered prior to impacting Earth. pic.twitter.com/kYsQ40uuFq
— Tony Dunn (@tony873004) March 12, 2022
この低周波音で検出されたデータからは、小惑星が3メートル程度の直径を持っていた可能性が示唆されています。
また、小惑星は大気圏衝突時にほぼ破裂してしまい、残った破片は海に落下した可能性が高いようです。
小惑星が空中で爆発するのは、流星の小さな割れ目に空気が侵入し、これが大気中を高速で飛翔する際の圧力上昇で内部から破壊するためと考えらています。
こうした現象は、「火球」と呼ばれていて、過去にも多くの目撃報告があります。
下は2013年ロシア、チェリャビンスクで撮影された火球です。
こんな衝突直前に発見されて、慌ただしく落下予想が分析されたことに驚く人もいるかもしれません。
地球に落ちる小惑星が、「そんなギリギリまで見つけられないとか大丈夫なのか?」と不安を覚える人もいるかもしれません
しかし、実際のところギリギリまで気づかなかったというより、ギリギリで気づいたことがすごいというべきでしょう。
直径が数メートル程度の小惑星は、ほとんど観測でも見ることができないため、見つかること自体が稀です。
このサイズの小惑星については、大抵の場合は、地球にぶつかって初めて存在に気づくことがほとんどなのです。
そのため、今回の小惑星「2022 EB5」は、記録上、地球衝突前に発見できた5番目の小惑星になるといいます。
むしろ今回の報告は、小さな小惑星を事前に捉えることができるようになった観測技術の向上や、わずか2時間後に衝突する小惑星の落下位置などを衝突前に計算できたという天文台の予想能力の高さが示された例と言えるでしょう。
また、地球上は海の領域が大きいため、ほとんど地上に被害がもたらされることはありません。
ただ、ツングースカ大爆発などは、こうした小惑星のかなり規模の大きいバージョンだった可能性が指摘されています。
戦争状態のロシア上空に、こんなものが落ちてきて、ミサイル攻撃と勘違いされなかったことは幸いだったと言うべきかもしれません。