猫の遺伝操作で「猫アレルギーの人でも猫を飼えるようになる」
「猫好きなのに猫アレルギーのせいで猫を飼えない」
という人も世の中には多いでしょう。
猫アレルギーの人は、猫がいた空間に近づくだけで鼻や目の粘膜に炎症が起こり、くしゃみや鼻水、涙が止まらなくなってしまいます。
最大の原因は、猫の唾液などから分泌される特定の猫タンパク質(Feld1)です。
猫が毛づくろいなどを行うために自分をなめると、原因となる猫タンパク質(Feld1)が唾液に混じって毛に付着し、乾燥すると空気中に拡散されます。
花粉症の人が空気中の花粉でアレルギーを起こすのと同じく、猫アレルギーの人は空気中の猫タンパク質(Feld1)によってアレルギー症状が誘発されてしまうのです。
しかし原因が判明しても、猫が家にいる限り、猫アレルギーを防ぐことはできません。
花粉症ならば家を密閉することで原因となる花粉を除去することができますが、猫は基本的に自由に家の内部を歩き回ります。
花粉症でたとえるならば、家の中に動き回ってすり寄ってくる杉の木や菜の花がいるような状況であり、かなり絶望的と言えるでしょう。
これまでキャットフードを改良したり中和抗体の含まれたウェットタオルで猫の体を拭くなどさまざまな方法が考案されてきましたが、決定打からはほど遠くなっています。
そこで今回、Indoor Biotechnologies社の研究者たちは猫から猫アレルギーの原因となる遺伝子を猫から除去することにしました。
原因となる猫タンパク質(Feld1)は猫の遺伝子にある設計図をもとに作られるために、設計図そのものを猫から消去できれば原理的には、2度と生産されることはなくなります。
研究者たちはさっそく50匹の家猫から細胞を採取し、原因となる猫タンパク質の遺伝子をCRSPR(クリスパー)遺伝編集技術を用いて排除を試みました。
(※CRSPRを用いた遺伝編集では目的とする遺伝子を認識するガイド分子とガイド分子が認識した部位の遺伝子を切除する切断酵素が組み合わせられており、非常に簡単な操作で遺伝編集が実行可能です)
結果、全細胞の55%において原因遺伝子を排除できていたことが確認されました。
この技術を応用できれば、遺伝編集効果のある薬を猫の唾液腺などに注射して、原因となる猫タンパク質が猫の唾液から分泌されることを防ぎ、空気中への拡散も防ぐことが可能になります。
頼みもしないのに強制的に口の中に注射器を突っ込まれる猫にとっては迷惑な話ですが、この遺伝編集法には後天的……つまり猫が大人になってからも実行が可能であるという強みがあります。
また接種方法が改良され経口薬でも実行可能になれば「飲む遺伝編集薬」として猫アレルギーの原因遺伝子を簡単に排除できるようになるかもしれません。
しかしタンパク質の設計図となるような遺伝子(エクソン部分)を勝手に排除して、猫の健康に問題がないのでしょうか?