祖先の腕は長かったが…
ティラノサウルスは、体長約13メートル、体重9トン、頭蓋骨の長さは1.5メートルもあるのに、腕の長さは1メートルもありません。
これはたとえば、180センチの人が約12センチの腕を持つようなものです。
ティラノサウルスは、恐竜時代の末期に登場し、約6600万年前の隕石衝突で絶滅しましたが、彼らの祖先は獲物を掴む上で最適な長い腕をもっていたことがわかっています。
つまり、進化の過程で、どんどん腕を短くしていったわけです。
それは一体、なぜなのでしょう?
米カリフォルニア大学古生物学博物館(UCMP)の学芸員であるケビン・パディアナ(Kevin Padiana)氏は、その謎に迫ることにしました。
なんのための腕?
19世紀末に、ティラノサウルスの化石が初めて見つかったとき、体に対して小さすぎる腕は、同じ個体のものではないとまで考えられました。
しかし、それがティラノサウルスの腕と判明すると、古生物学者たちはそのしょぼい腕を何に使っていたのか、さまざまな説を唱えました。
最初期のものは「交尾の際にメスを固定する留め具として機能した」という説です。
パディアナ氏は、これについて、ティラノサウルスの腕は短すぎて、メスの胴体をしっかり掴むには不向きであり、また相手をコントロールするには弱すぎる、と反対します。
その後も1世紀にわたり、さまざまな説が登場しました。
いくつか抜粋しますと、
・仲間を引き付けるための社会的シグナル
・地面から立ち上がるときの支え
・獲物を押さえつける
・ツノのようにして敵を刺す
・夜間に寝ているトリケラトプスを引き倒す
などが挙げられます。
また、専門家の中には「腕にはまったく機能がないので、気にする必要はない」とする意見もあります。
このように、研究者たちはティラノサウルスの腕はあまりにしょぼいため、腕を使う用事がなかったから退化したと考えていたようです。
むしろ小さい理由より、その短い腕の限定的な利用方法の方が着目されていました。
とはいえ、使わないから退化したにしても、彼らの体格から見て腕のサイズ変化は極端過ぎる印象があります。
そのため、最近の説では、小さい方が獲物を素早く引き裂くために有利だったから、というような説も唱えられています。
これらを踏まえ、パディアナ氏は、近年明らかになってきたティラノサウルスの新事実をもとに、新たな説を唱えました。