群れで食事中に「腕を噛みちぎられない」ため
パディアナ氏の新説は、ティラノサウルスが、フィクション作品で描かれているような単独ではなく、「群れで狩りをしていた」という近年の研究結果から導かれました。
過去20年の間に、いくつかの重要な発掘現場で、ティラノサウルスの成体と幼体が一緒に出土しています。
これがただ一つのケースならまだしも、複数か所で見つかっていることから、ティラノサウルスが群れで狩りをしていた可能性が高まっているのです。
このことから、パディアナ氏は、群れで獲物を漁っている際、仲間の腕を偶然あるいは意図的に切断するのを防ぐために、腕を縮小させたのではないか、と推測します。
「もし、数頭のティラノサウルスが死骸に寄り集まったらどうなるでしょうか。
強力なアゴ力を持った群れが、身を寄せ合って、すぐそばで獲物の肉や骨を噛み砕いているのです。
このとき、夢中でエサを食べる隣の友人が自分の方に近づきすぎたら、故意でなくとも、あやまって仲間に腕を噛みちぎるリスクが高まるでしょう」
さらに、腕に傷ができると、そこから病原菌が侵入し、感染症で死にいたる可能性もあります。
つまり、使わないから小さくなったというより、彼らには腕が大きいことにデメリットがあったのです。
それに腕が小さくなれば、それを維持するためのエネルギーコストも少なく抑えられます。
それゆえ、「ティラノサウルスは、数百万年の進化の中で腕を縮小させていったのだろう」と、パディアナ氏は結論します。
この説を証明するのはかなり困難ですが、パディアナ氏は「腕の噛み痕がヒントになる」と話します。
もし、ティラノサウルスの腕に噛まれた痕跡がなければ、縮小がうまくいった証拠となるかもしれません。