細胞を培養すれば、どんな動物でも「食肉」にできる
プライムバル・フーズの創業者であるユルマズ・ボラ(Yilmaz Bora)氏は、食肉として牛や豚、鶏が人気なのは「味や栄養素のためではなく、家畜化しやすい動物だから」と指摘します。
しかし、細胞を培養する技術さえあれば、飼育が困難で大量に繁殖しにくい動物でも、食肉にすることは十分可能です。
ボラ氏は、培養肉について、「コレステロールや飽和脂肪、”動物や環境の犠牲”といったマイナス要素なしに、本物と同じ食感や栄養を味わうことができる」と話します。
細胞生物学と組織工学を駆使すれば、食肉を構成する筋繊維や脂肪の組織だけを培養することが可能です。
そのため、動物を殺める必要もないですし、骨や臓器などの廃棄物も出ません。
また、飼育にかかるコストや、家畜が排出する温室効果ガスも削減できます。
ある研究では、培養肉は従来のヨーロッパにおける食肉生産に比べて、エネルギー使用量が約7〜45%少ないという結果が出ています。
温室効果ガスの排出量も78〜96%少なく、土地の使用は99%、水の使用は82〜96%削減されたという。
さらに、実験室での培養では、細胞が成長するために必要な要素、たとえば、水分・酸素・栄養分・細胞間の分子シグナルなどを外部から供給できます。
ですから、脂肪の含有量も調節できますし、より栄養価の高い食肉を作ることも可能なのです。
培養肉は、動物愛護、環境保全、人口増加にともなう食糧の確保など、あらゆる問題を一度に解決できるかもしれません。
ボラ氏は「培養肉は伝統的な食肉の代替品ではなく、それをアップグレードするものなので、今後も継続して広がっていくでしょう」と述べています。
ただし、工業規模での生産は実施されていないため、全体的なコストがどうなるかはまだ不明です。
さて、プライムバル・フーズは現在、シベリアトラ、ヒョウ、ベンガルトラ、ライオン、シマウマの細胞を用いた培養肉の生産を進めています。
大型ネコ科動物の細胞は、飼育下の個体から採取し、シマウマについては、アメリカの食肉企業・エキゾチックミートマーケット(exotic meat market)から調達しています。
今のところ、ライオンの培養肉を使ったパテ、トラ100%のステーキ肉、シマウマの培養肉を材料にした寿司ロールを主なラインナップとして予定しています。
なぜシマウマを寿司に入れようと思ったのかは不明ですが、なかなか奇抜な試みです。
同社は現在、規制当局から培養肉の生産・販売の許可が下りれば、近々、ロンドンとニューヨークのミシュラン星付きレストランで試食会を開く予定とのこと。
ちょっと怖いもの見たさで、食べてみたい気もしますね…