3800年前に起きた「史上最大級の地震」の痕跡を特定
チリ大学(University of Chile)の人類学者ディエゴ・サラザール(Diego Salazar)氏率いる研究チームは、チリ北部のアタカマ砂漠地域で数年にわたる調査を行ってきました。
ここは、ナスカプレートと南アメリカプレートの接するポイントに近く、前者が後者の下に沈み込んでいるため、巨大な地震が発生しやすい場所です。
この領域の地震は、2つのプレートがこすれ合い摩擦面が破壊されることで発生し、その破壊の時間が長くなるほど、揺れの規模も大きくなります。
それが原因で起きた観測史上最大級の地震は、1960年5月、チリ南部で発生した「バルディビア地震」です。
これは、チリ中部〜南部にかけての近海、長さ約1000キロ・幅200キロを震源域とした超巨大地震であり、マグニチュード9.2(M9.5との報告もあるが現在は過大評価とされる)を記録しました。
このチリ地震で発生した津波は、日本の東北地方にまで押し寄せ、太平洋沿岸地域に大きな被害を及ぼしました。
ところが、これと同程度かそれ以上の規模を持つ地震が、かつてのチリ北部で起きていたのです。
この発見は、アタカマ砂漠沿岸の隆起した堆積物、津波によって高台に打ち上げられた海洋岩石、大量の貝殻、海洋生物のサンプルなどから証明されました。
サラザール氏は「チリ北部では、これほど大規模な地震は起きないと思われていた」と指摘。
「なぜなら、北部エリアでは(プレートの擦れによる)十分な長さの破壊が起きないと考えられていたからです。
しかし私たちは、アタカマ砂漠の海岸近くで、長さ約1000キロに及ぶ破壊の証拠を見つけたのです」
共同著者で、ニューサウスウェールズ大学(UNSW・豪)の地質学者ジェームス・ゴフ(James Goff)氏は、こう言います。
「私たちは、巨大なプレートの破壊によってチリ北部の海岸線が隆起した痕跡を発見し、内陸に投げ込まれる前に海で静かに暮らしていたであろう多くの生物の遺骸を見つけました。
これらはすべて、海岸部の非常に高い位置で、しかも内陸深くまで運ばれていました。
ですから、嵐ではなく、巨大な津波によって高台に投げ出された可能性が高いのです」
研究チームは、チリ北部の海岸線、約600キロにわたって沿岸堆積物を収集し、放射性炭素の年代測定を実施。
その結果、これらは約3800年前のものであることが特定されました。
また、ゴフ氏は以前、ニュージーランドのチャタム諸島にある遺跡を調査していた折、沿岸から数百メートル離れた内陸で、車サイズの海洋岩石を大量に発見していました。
これらの年代測定をしたところ、チリ北部の地震と同じ約3800年前のものであることが判明したのです。
ゴフ氏は「ニュージーランドで見つかった巨岩は、チリ北部で発生した津波によって内陸に運ばれたと見られ、それほどの津波を生み出すには、マグニチュード9.5の地震が必要なのです」と説明します。
遠くニュージーランドにまで達したことを考えると、チリ北部沿岸への被害は甚大なものだったでしょう。
当時の人々は、この巨大地震と津波にどのような反応を示したのでしょうか?