光の運動量を0にすると二重スリット実験で「しま模様」が消えると判明
光は多様なエネルギーを運んでいることは古くから知られていました。
私たちの目がたくさんの色を感じられるのも、太陽が発する光が色に応じた多様なエネルギーを持っているからです。
一方、光にはエネルギーだけでなく運動量も持っていることが知られています。
ただ、これは古典物理学に照らし合わせた場合、運動量として捉えられるというだけであって、古典物理学の運動量と量子力学の運動量はイコールではありません。
古典物理学(ニュートン力学)では、「運動量 = 質量 ✕ 速度」という式で表されますが、そもそも光は質量を持っていないので、こうした考え方で捉えることはできません。
この点には注意しておきましょう。
アインシュタインはかつて、光も弾丸や小惑星のように、衝突した物体に運動量を移動できることや、光が放出されたとき発信元となる量子を逆方向に押す「反跳」など、物体と運動量のやりとりをする性質があることを示しました。
しかし今回ハーバード大学の研究者たちはアインシュタインの理論の一部に疑問を投げかける発見を行いました。
研究者たちが開発した「光の屈折率が0に近い材料」に対して光をあてたところ、運動量を伝える性質を失うどころか「光そのものの運動量が0になる」ことが判明したのです。
いきなり、そんなことを言われても意味がわからないので順々に説明していきましょう。
彼らが行っていたのメタマテリアルと呼ばれる分野の研究です。
メタとは「超越」という意味で、自然界を超越した材料を生み出すという意味です。
これは光の波長より細かな微細構造を物質中に作り出すことで、物質の光学的な特性を自在に操ることを目的としています。
こう聞くと難しく思えますが、簡単に考えるなら物質の中を通過する光の動きを自在に操る研究ということです。
そのためメタマテリアルは「透明マントを現実に作り出す研究分野」と説明されたりしています。
そして、今回彼らが研究したのは、光の屈折率がほぼ0になるメタマテリアルの中では、光がどうのような状態になるかということです。
屈折とは、光が物質中を通過する際、真空中より速度が落ちることで進行方向が曲がる現象です。
この真空中より光の速度が落ちる割合を示したものが屈折率です。
メタマテリアルでは、この屈折率を操作する技術が進化を続けていて、負の屈折率を持つ材料というものも実現しています。
負の屈折率とは、入射角と反対方向に光が折れ曲がってしまう状態です。
しかし、マイナス方向の屈折率を持つ材料の作成には成功していても、0の屈折率という材料はまだ存在していません。
ではこの屈折率がほとんど0に近づいたとき、光はどのような振る舞いをするのでしょうか?
研究者たちが屈折率0の物質中にある光の状態を計算したところ、光はヤングの二重スリット実験を行った場合にも光の波の性質を特徴づける「干渉縞(しま模様)」を作らなくなることが示されました。
二重スリット実験では通常、光子などが1個ずつ発射され、二重スリットのどちらかを通過して、向こうの光に反応する壁にあたります。
光は粒子としての性質と波としての性質をあわせ持つため、向こうの壁には波同士が相互作用した証となる「しま模様」が形成されます。
しかし運動量が0になった光は、波長が無限大となり、波の山も谷も消えてしまったのです。
これらの結果は運動量が0になった光は量子的な性質のいくつかが抑制されていることを示します。
この材料中で光は一体どうなっているのでしょうか?
光はこのとき、どの様な状態だと解釈すればいいのでしょうか?