自律型人工臓器群が肝臓の長期保存を可能にする
技術の開発にあたって重視されたのは、可能な限り体内環境を再現することでした。
そのため研究者たちは、拍動を再現する人工心臓・酸素を吸収し二酸化炭素を排出する人工肺・透析機能を備えた人工腎臓・血糖を感知してインスリンを分泌する人工膵臓・呼吸にあわせて上下する人工横隔膜などを組み合わせた複合人工臓器を組み立て、テストに挑みました。
それぞれの人工臓器はこれまで単独で人間の命を維持するために使われていましたが、組み合わせることで実際の体内環境に近づくことが可能になります。
テストの対象になったのは、敗血症を患っていた29歳のドナーから提供された肝臓の一部でした。
通常、提供された臓器は即座に希望者への移植が行われます。
しかし、このドナーから提供された肝臓片は細菌感染を起こしており、さらには内部に小さな腫瘍が確認されたために、移植用として不適格と判断され破棄寸前の状態にありました。
研究者たちは連絡を受けると、この肝臓片(不良品)を素早く回収。
そして上の図のように輸血液とチューブを介して人工臓器群と連結し、3日間にわたるテストが開始されました。
テストでは肝臓片の動脈側から酸素と栄養を含んだ輸血液が供給され、静脈側からは二酸化炭素と老廃物を含んだ血液が輩出され、人工肺と人工腎臓による処理をへて再び動脈側へと循環を繰り返します。
また食事の時間にあわせてブドウ糖が血中に加えられると、人工膵臓が血糖値を検知してインスリンを分泌し、肝臓に糖分の取り込みを命令しました。
さらに肝臓片の底には呼吸を再現するように上下を繰り返す人工横隔膜が設置され、肝臓への物理的な支えを再現します。
これらの人工臓器は人間の細かな操作を必要とせずに、自律的に動作するようにプログラムされており、ヒューマンエラーを最小限に抑えることが可能になっています。
接続が確立すると、研究者たちは肝臓片が消化酵素や胆汁を正常に分泌しているかを監視しました。
すると、肝臓片は再生を開始しただけでなく、消化酵素も胆汁も順調に生産されていることが判明します。
次に研究者たちは事前に確認されていた内部の腫瘍を採取し、良性か悪性かの診断を開始すると同時に、循環する血液に抗生物質を投与し、細菌感染の治療をはじめました。
すると3日後には、腫瘍は良性のものであり、細菌感染も収まったことが確認できました。
この結果は、悪性腫瘍の疑いと細菌感染をかかえ破棄されるハズだった「不良品」の臓器が、時間稼ぎと体外治療(抗生物質)によって「優良品」になったことを示します。
体外治療が終わると、研究者たちは最後に実際の臓器移植にとりかかりました。