地球自転が不安定な原因は内核の特殊な回転にあった
では、なぜ地球の自転速度はそんなに不安定なのでしょうか?
これについては、以前より、潮汐力による海洋の質量分布の複雑さや、地球内部のマントルやコアの運動が関係するためだと考えられていました。
特に地球内部の様子を人間は直接観測することができないため、不明瞭な要因によって複雑に変化していると推察されていたのです。
ただ、直接観測することはできずとも、人類は地震波の伝播の仕方を調べることで、地球内部がどの様な構造になっており、どのように運動しているかを推測してきました。
こうした研究から、地球内部には、冥王星と同じくらいの大きさをした鉄が主成分の内核があり、それが液状の外核の中に浮かんでいることがわかりました。
さらに、1996年に発表された研究では、内核が地球自転より速い速度で回転している可能性が示されたのです。
液状の外核の中に浮かぶ内核が、地球自転より速く回転する可能性は十分に考えられる状況です。
ただ、実際に内核がどれほどの速度で回転しているのかはよくわかっていませんでした。
その後、今回の研究の発表者でもある南カリフォルニア大学の地震学者ジョン・ヴィデール(John Vidale)教授が、米国の大口径地震アレイ(LASA)のデータを使った新しい測定方法により、内核の回転速度が地球自転より約0.1度速いということを明らかにします。
この研究で役立ったのが、冷戦時代に行われた米国と旧ソ連の地下核実験でした。
核実験は実施地点と時刻、さらにその強度に関する正確な記録があり、しかも地球深部まで伝播する巨大な振動を発生させます。
そのため核実験によって生じた振動の観測データからは、非常に精密な地球内部の情報が得られるのです。
地球の内核は地表で測定される地球の自転速度よりも少しだけ速い速度で回転している。
こうした事実から地球の内核は、それを取り巻く外核やマントルの粘性率との関連で、ある程度回転が先行した後、引き戻されて回転が反転する場合があるのではないか、という説が登場しました。
このモデルは地球の自転速度が不安定になる理由を説明できましたが、実際のところ本当にそんなことが起こりうるのかという点において、科学者の間でも意見がわかれていました。
そこでヴィデール教授は、内核の速度を測定した方法を利用して、今回は内核の回転方向が一定であることを明らかにしようと研究を行ったのです。
しかし、結果は教授の予想を裏切るものとなりました。
ヴィデール教授のチームは、1971年から74年に掛けて行われたソビエトの地下核実験と、1969年と1971年にアラスカで行われた地下核実験のデータを用いて、内核の運動について分析しました。
すると、内核は69年から71年にかけて徐々に減速していき、その後の71年から74では回転方向が逆転していたのです。
「わたし達は、どちらの核実験のデータからも同じ回転方向と速度が確認できるだろうと期待して研究を始めました。
しかし、結果はまったく逆でした。内核が反対方向に動いているのを見つけて、私たちは非常に驚きました」
ヴィデール教授はそのように語り、結果が予想外であったことを強調しています。
しかし、この結果は地球の1日が不規則に伸び縮みする事実と一致しており、またこれが6年周期で極運動の振動が増幅する問題や、地磁気がうろつく問題に対しても説得力のある理論を提供すると述べています。
「内核は固定されておらず、6年ごとに数キロメートル前後に移動しているようだ」
ヴィデール教授は、今後、この内核のプロセスを正確に理解することが、地球の1日の時間変動を理解するための重要なステップになると述べています。
ただ、もう現代では新しい地下核実験が行われることはなく、また今回の研究データを測定したモンタナ州の大口径地震アレイ施設も閉鎖されてしまっています。
今後は不確定な地震データに頼るしか無いため、ここからの調査研究は困難を極める可能性があります。