「聖杯」を完成させた3人の子供たち
なぜ移植された免疫システムは子供たちを攻撃しなかったのか?
鍵となった要因は子供たちの特殊な遺伝子と子供たちの元々の免疫システムに対する処理方法でした。
以前移植を受けて亡くなった子どもたちも、今回の試験の対象となった3人の子供たちも共通してシムケ免疫骨異形成症(SIOD)という遺伝疾患を抱えていました。
この遺伝疾患では免疫機能と腎臓機能の両方が低下することが特徴として知られており、他者からの免疫システム(骨髄幹細胞)と腎臓の両方を二重移植する必要がありました。
そこで研究者たちはそれぞれの子供の親に提供者となってもらい、段階的な移植を行うことにしました。
第1段階では、子供たちの元々の免疫システムを一時的に「穏やか」な方法で抑制すると同時に、骨髄中のαβ-T細胞とCD19 B細胞の2種類の排除が集中して行われました。
ターゲットとなった2種類の細胞は移植された親の免疫システムが子供の体を攻撃する原因になります。
以前失敗して犠牲者を出してしまった方法では、患者の免疫能力を徹底的に破壊するという方法のため、予期せぬ致命的な副作用が出てしまいましたが、今回はマトを絞っての処理になっています。
子供たちの免疫システムの処理が終わると、親から取り出した免疫システム(骨髄幹細胞)の移植が行われました。
そして5~10カ月かけて、親の免疫システムが子供の体や免疫システムに馴染んでいくかを調べました。
幸いなことに、移植された親の免疫が子供の体を攻撃している様子は確認されず、研究者たちは次の段階に移行します。
第2段階では、いよいよ親から摘出された腎臓が子供の体へと移植され、経過が観察されました。
結果、3人の子供たちは移植後22~34カ月たっても、免疫抑制剤なしに移植された腎臓を保持できていることが確認されました。
また喜ばしいことに、子供たちが抱えていた遺伝性の免疫不全も大幅に改善されていることも確認できました。
この結果は、親から移植された免疫システムと腎臓が子供の免疫不全を解消すると同時に、正常な腎臓機能を提供できていることを示します。
つまり限定的な条件ながら、子供たちは「完全な免疫力を維持」したまま「拒絶反応を回避」するという「聖杯」の条件を達成し、免疫抑制剤なしでの生活が可能になったのです。