真の原因は「競争社会」にあり?
カラン氏によると、親によるプレッシャーが増加した根本的な原因は、個人主義や他者との競争を奨励する昨今の社会、具体的には”新自由主義的な社会”にあると指摘します。
”新自由主義”とは、簡単に言えば、「政府による社会への介入を最小限にしよう」という立場です。
たとえば、政府が積極的に社会に介入すれば、社会保障もしっかり整備されるので、貧富の差は生まれづらくなります。
その一方で、市場や企業の活動が大幅に制限されるため、国の経済は停滞しやすくなります。
そこで、政府が一歩後ろに下がり、企業に自由に競争してもらうことで、経済を活性化させられるのです。
ところが、これは弱肉強食の世界であり、競争についていけない人は貧困に陥り、社会保障も手薄になるため、貧富の差が一気に拡大します。
よくアメリカは国民健康保険がないため、医療費がやばいみたいな話を聞くことがあると思いますが、これはアメリカでは新自由主義の導入が進んでいるためです。
つまり、新自由主義とは、誤解を恐れずに言ってしまえば、「国に頼らず、自分の力でなんとかせよ」という姿勢なのです。
そうなると、親は「どうにかピラミッドの上へのし上がってほしい」と教育熱心になる→ますます子どものプレッシャーとなる→「ミスは許されない」という気持ちを助長し、完璧主義の若者が増える…
こうした悪循環に陥ってしまうのです。
この視座に立って、カラン氏は「本当の原因は親ではなく、現代社会のシステムにあり、競争を促す新自由主義が、親や子どもの大きなプレッシャーとなっているのかもしれない」と説明します。
そして忘れてならないのは、この社会規定型の完璧主義が、抑うつや不安障害などの原因になることです。
青少年の精神疾患は年々、増加傾向にあり、それらは最悪の場合、自殺という悲劇的な事態につながりかねません。
今回の研究は、欧米を対象にしたもので、日本は調査されてはいませんが、格差の問題は日本でも取り沙汰されることが多いため、決して他所の国の問題とはいえないでしょう。
最近の学校教育の現場では、運動会の徒競走から順位をなくしたり、成績の順位を発表しないなど競争させない方針を耳にすることがありますが、実際の社会では競争は激化しているようです。