腸呼吸のウィークポイントとは?
腸呼吸の弱点は、通常の好気性の肺呼吸に比べて、はるかにエネルギー効率が悪い点です。
というのも、水を総排泄腔から内部の袋状器官に取り込むには、多大なエネルギーを要します。
そのせいで、カメが呼吸から得られる酸素獲得量が、普通の呼吸に比べて少なくなってしまうのです。
イメージしてみましょう。
私たちが空気を吸い込むとき、気体はとても軽やかで、肺の中を自由に出入りするので、実質的にエネルギーは必要ありません。
ところが、液体である水を出入りさせることを想像してみてください。しかも、お尻の穴から。
そんな芸当が、どうしてゼロエネルギーでできるでしょう?
しかも、水は同じ体積の空気より、含まれる酸素量が約200分の1なので、肺呼吸と同じ量の酸素を得るには、より多くの水を取り込まなければならないのです。
しかし、こうしたウィークポイントがありながらも、一部のカメは腸呼吸をやめませんでした。
水面に顔を出すという危険な賭けに出るよりも、肛門から地道に酸素を取り込む方を選んだのです。
そうした中で、他の種に比べ、ズバ抜けて腸呼吸のうまいカメも誕生しました。
オーストラリア産のハヤセガメ(Rheodytes leukops)です。
他種が環境や状況に合わせ、腸呼吸をピンポイントで使うのに対し、ハヤセガメは、エネルギーの100%を腸呼吸で賄うことができます。
つまり、理論的にハヤセガメは、水中に無限にとどまることができるのです。
氷の下に囚われても…
もう一つ、腸呼吸が有効なシチュエーションがあります。
それは、冬時期に池や湖、川の水面が凍ったときです。
こうなると、そもそも水面に顔を出せなくなりますから、腸呼吸が大活躍します。
北米には、冬期に限定して腸呼吸を多用するカメが6〜7種ほど存在します。
たとえば、ブランディングガメ(Emydoidea blandingii)は、冬の間、池を覆う氷の層の下で数カ月を過ごさなければなりません。
しかし、ブランディングガメは、腸呼吸をすることで、100日以上も氷の下に居続けられるのです。
冬期間のカメは、冬眠状態なので代謝率が大幅に低下しており、生存に必要なエネルギー量が少なく、腸呼吸でも十分に生きていけます。
カメのような爬虫類は、寒いと行動が大幅に制限されます。また水中は地上より温かい場合が多いので、こうした機能を使って冬を越すことが有効だったのでしょう。
お尻を使った呼吸というと奇妙な感じがしますが、それは困難な環境を生き抜くために編み出された、重要な能力なのです。