「個体発生は系統発生を繰り返す」という仮説
1859年、イギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンは、進化論を扱った『種の起源』を出版しました。
これに伴い、進化論と結びつけた「反復説」が広まります。
反復説はドイツの生物学者エルンスト・ヘッケル氏が提唱した1つの仮説であり、「個体発生は系統発生を繰り返す」という言葉でも表現されます。
個体発生とは受精卵が成体のかたちになるプロセスを指し、系統発生とは「単純な生物から多種多様なかたちに変化してきた」という進化のプロセスを指します。
例えば、ヘッケル氏が提出した上図(現在では正確性に欠けるとの指摘あり)では、人間の胎児が受精卵から発達していく過程が描かれています。
段階的に、魚類に似たかたち、爬虫類に似たかたち、ネズミに似たかたちを経ており、最終的にはヒトのかたちになっていますね。
これだけを観察すると、進化のプロセスをたどっているように見えるわけです。
つまり反復説では、胚の成長過程(個体発生)には、進化の過程(系統発生)が濃縮して見られると考えられています。
とはいえ、ヘッケル氏の反復説は多くの批判を浴びてきました。
実際、科学者たちから「ヘッケル氏は自身の説を強調するために、図の歪曲や生物データの捏造を行っている」と指摘されています。
このようにヘッケル氏の反復説は発表当初に爆発的な流行を見せたものの、その後は人々に見放されました。
しかし最近では、ヘッケル氏の反復説を部分的に再評価する科学者たちも現れており、この分野に改めて注目した研究も増えているようです。
ブーラー氏ら研究チームも、同様の観点で研究を続けており、最近になって新しい発見を報告しました。