JWSTに搭載された3つの赤外線カメラで撮影!
タランチュラ星雲は、正式名称を「かじき座30(30 Doradus)」といい、地球から約16万1000光年の距離にあります。
天の川銀河の伴銀河(より大きな銀河の周囲を公転する銀河)である「大マゼラン雲」の中にあり、高温で大質量の星々が集まった、非常に明るい星形成領域です。
また、巨大なガスやチリが複雑なフィラメント構造を成しており、それがタランチュラの脚のように見えることから、この別称が付けられました。
今回の観測では、この星形成領域の理解を深めるべく、JWSTに搭載された3つの赤外線撮影装置が用いられています。
赤外線は、宇宙空間に浮かぶガスやチリを透過できるため、可視光を使った装置と比べ、より深部まで鮮明に観測することが可能です。
まずは、近赤外線カメラ「NIRCam」で撮影したタランチュラ星雲の画像がこちら。
ここでは、タランチュラ星雲の星形成領域が340光年の長さにわたって映し出されており、これまでチリに覆われて見えなかった何千もの若い星を捉えることに成功しました。
最も活発な中心部の領域では、無数の若い星が青白い輝きを放っており、中には、まだチリの繭(まゆ)に覆われていることを示す、赤い星が点在しています。
研究チームは「青白い星々が、強烈な放射線や恒星風を放出しているために、周囲のチリやガスが吹き飛ばされ、中心部に空洞が形成されている」と説明しました。
吹き飛ばされた白いガスやチリの束は、風に吹かれたクモの巣のように見えます。
次に、中赤外線装置「MIRI」で撮影したタランチュラ星雲がこちらです。
MIRIは、NIRCamよりも波長の長い赤外線を使うことで、高温の星々の光を見えなくする代わりに、より低温の領域(ガスやチリ)を鮮明に映し出します。
そのおかげで、チリの中に淡く輝く白色の点光源が新たに発見されました。
これらは、生まれたばかりの「原始星」を示し、まだチリの繭に包まれて、現在も質量を増加させている段階にあるといいます。
最後に、3つ目の観測装置である近赤外線分光器「NIRSpec」でも観測が行われました。
NIRSpecは、光のパターンを分析して、天体の組成を調べる装置です。
ここでは、星雲の中心に見える「泡(bubble)」のような部分に焦点を当てて、分析しています。
するとここでも、チリの繭に包まれた「原始星」が発見され、それが周囲のチリやガスを吹き飛ばしているようでした。
タランチュラ星雲は「宇宙の真昼」の謎を解く鍵をもつ
天文学者がタランチュラ星雲に注目する最大の理由の一つは、「宇宙の真昼(Cosmic Noon)」と呼ばれる星形成時期の謎を解く鍵を持っていることです。
宇宙の真昼とは、ビッグバンから約20〜30億年後に、星の形成がピークに達していた時期を指します。
そして、タランチュラ星雲は、その宇宙の真昼における星形成領域と似たような化学組成を持っているのです。
残念ながら、天の川銀河にある星形成領域は、タランチュラ星雲ほど猛烈な勢いで星が生まれておらず、また、化学組成も異なっています。
そのため、天の川銀河にほど近いタランチュラ星雲を調べることは、宇宙の真昼に何が起きていたかを知る近道となるのです。
人類は、数千年にわたって夜空の星を観察してきましたが、星の形成プロセスにはまだまだ多くの謎が残されています。
JWSTによるタランチュラ星雲の観測は、私たちの知らない星の秘密を明らかにする一助となるでしょう。