言語を学ぶ才能のあるイヌは普通のイヌより遊び心がある
いくつもの単語を理解する賢い犬を見ると「どうやってしつけたんだろう?」と驚くかもしれません。
しかし、これらのイヌは特に厳しいしつけによって言語を覚えたわけではなく、先天的に言語を理解する能力が高いようです。
ハンガリーのエトヴェシュ ロラーンド大学のフガッツァ氏らの研究グループは天才犬と普通のイヌとの差は、生まれ持った性格によるもの、特に「遊び心」であると結論付けました。
ここからはどのような研究でその結論に至ったのか、詳細な部分を説明していきましょう。
単語学習が可能なイヌは希少
そもそも単語学習が可能である天才犬はどのように定義されているのでしょうか。
今回の研究では、周辺各国から2年間かけて集めた「すでに10個以上の単語を理解しているイヌ」を天才犬のグループとしています。
なお、これらの選ばれたイヌたちはほとんどがボーダーコリーだったことから、対象群である定型発達のイヌもボーダーコリーの中から選ばれました。
これらの2つのグループのイヌは、3カ月間おもちゃの名前を覚える特別なトレーニングを行いました。
対象群のイヌたちはほとんどのおもちゃの名前を習得しなかったのに対し、天才犬のグループでは少ないイヌでも新たに10個以上のおもちゃの名前を覚えたと言います。
天才犬たちの中にはわずか4回教えただけでおもちゃの名前を覚えることができ、1週間に12個のおもちゃを学んで、2カ月以上記憶し続けることができる個体もいたとのことです。
対象群のイヌも、天才犬たちも年齢や性別などはばらばらでした。
また、天才犬たちは普段から特別なトレーニングを受けていたわけではありません。
天才犬たちの中には多頭飼いされているうちの1匹だけで参加したイヌもいることから、同じしつけでも天才犬と定型犬に分かれることが明らかとなりました。
つまり、天才犬となる素養はしつけではなく、生まれ持ったものということになります。
アンケートからわかった普通のイヌとの性格の違い
そこで、同研究グループは天才犬と定型犬の両方の飼い主に愛犬の性格について尋ねるアンケートを行いました。
その結果「訓練への応答性」などといった項目はどちらのグループも変わりませんでしたが、「活動/興奮性」の中の小項目である「遊び心」について天才犬のグループが有意に高い結果となりました。
この「遊び心」は「新しい経験へ興味を持つこと」「飼い主と遊ぶのが好きなこと」などを示します。
実はイヌはしつけよりむしろ普段の生活でのコミュニケーションや遊びの中で単語を習得しているのです。
天才犬たちは「もっと遊びたい」という気持ちから人間の言語を用いたよりレベルの高いコミュニケーションを行うために単語を習得していったのかもしれません。
ただし、これらはあくまで飼い主に対して行われたアンケートの結果であり「もともと単語を覚えているからたくさん遊ぶ⇒遊び心があると回答した」という流れも否めません。
同研究グループのアーダーム・ミクローシ氏も「必ずしも遊び心が言語の才能を生み出すというわけではない」と話しています。
天才犬として報告されている個体はまだまだ少ないため、さらなる研究が求められているのです。
もともと知能の高いボーダーコリー
今回の研究で対象とされた犬種ボーダーコリーは元々牧羊犬で、古くから人間とコミュニケーションを取りながら暮らしてきました。
非常に賢い犬種とされており、犬種別の知能テストでは全犬種の中で最も高い知能指数を示しています。
なお、犬の知能は「新しい指示を何回繰り返すと理解するか」「1回目の指示で従うか」といった「人間の指示」を前提としたテストの結果で計られています。
こういった「人間の指示」に従う高い知能に加え、大きな「遊び心」を持つことで天才犬たちは指示がなくとも人間の言語を覚えるようになったのかもしれません。
ところで、そんな天才犬たちにとって「単語を覚える」ということはどのような感覚なのでしょうか?
この研究で行われた「単語を覚えているかどうか確かめるテスト」からは意外なイヌたちの頭の中が明らかになりました。