養殖ウナギは天然ウナギの中で生き残れるのか
養殖ウナギの放流がどれほど生息数への影響をもたらすのか知るためには、まず養殖ウナギが天然ウナギの中で生き残れるかどうかを調べる必要があります。
そこで、中央大学を中心とした研究グループは養殖ウナギと天然ウナギに関する3つの実験を行い、その養殖ウナギと天然ウナギの優劣を調査しました。
1対1だと天然ウナギの方が養殖ウナギより優位に
まず行われたのが、小型水槽に同じくらいのサイズの養殖ウナギと天然ウナギを1匹ずつ入れてその動向を観察するという実験です。
小型水槽にはウナギの隠れ家となるパイプが1本だけ入っています。
このパイプを使った時間の割合と、相手ウナギへの噛みつき回数によって養殖ウナギと天然ウナギの優劣が評価されました。
結果、パイプの占有率は天然ウナギが8割近くとなり、噛みつき回数も天然ウナギの方が多くなっていました。
特に1時間あたりの噛みつきの平均回数を比較すると、天然ウナギは3~8回程度なのに対し、養殖ウナギは1回するかしないかといったところで、養殖ウナギの攻撃性の低さが顕著に現れています。
人間でも箱入りで大事に育てられたら穏やかになるものですが、ウナギで同様の結果が出るのはおもしろいですね。
天然ウナギの中だと養殖ウナギの成長速度は下がる
天然ウナギと養殖ウナギは小型水槽だけでなく、広いコンクリート池でも行われました。
この実験では対照区として養殖ウナギだけの飼育も同条件で行われ、実験区との結果を比較しました。
2年間飼育を行ったところ、天然ウナギと一緒の池にいた養殖ウナギの生存率は40%で、養殖ウナギだけの池における生存率(90%)を大きく下回りました。
また、一日あたりの体重増加も天然ウナギと混合飼育された養殖ウナギの方が優位に下回り、最終的な体の重さも養殖ウナギだけで飼育された個体より軽いという結果になりました。
このような結果を見るだけでも、養殖ウナギにとって天然ウナギと暮らす環境がいかに過酷なのか思い知らされます。
さらにこの実験が行われたのは、あくまでエサは人間から与えられ、ウナギ以外の外敵はいないという川よりもずっと恵まれた環境なのです。
天然ウナギと一緒に暮らすだけでかなりの影響を受ける養殖ウナギは果たして自然の川に放流されて生き抜くことができるのでしょうか。
川では養殖ウナギは生き残れない
自然環境下における養殖ウナギの動向を探るために標識放流が行われました。
標識放流は天然ウナギが多い川と少ない川で両方行われましたが、天然ウナギの多さに関わらず放流2年後には養殖ウナギの個体数密度が9割減少していました。
また、天然ウナギの多い川と少ない川で放流された養殖ウナギの成長速度を調査したところ、天然ウナギが少ない川に放流した養殖ウナギの方が速く成長していることがわかりました。
養殖ウナギにとって、天然ウナギの存在を抜きにしても、自然の川で生き抜くことの大変さが見て取れます。
このような放流を続けても、ウナギの生息数増大に繋げることは難しいでしょう。
ウナギを増やすことができる放流を行うために今後一体どのような取り組みが必要となるのでしょうか。