VRが鎮静剤の投与量を減らし、術後管理の時間も短縮させる
手にしびれやチクチクとした痛みが生じる「手根管症候群」や、関節に痛みが生じたり水がたまったりする「変形性関節症」を治療するには手術が必要です。
こうした手術では、痛みをブロックする「局所麻酔」に加えて、患者の気持ちを落ち着ける「鎮静剤」を投与することがあります。
鎮静剤の投与は全身麻酔とは異なり、意識が完全になくなることはありません。
ウトウトと眠気を感じているような状態になるので、不安を抑えつつ、医師の呼びかけや指示に応じることもできるのです。
ただし鎮静剤には、低血圧になったり呼吸が浅くなったりするリスクがあります。
時には脳卒中や心臓発作、呼吸不全などの重篤な合併症が生じることもあるようです。
そのため、できるだけ鎮静剤の投与量を減らすことで、患者が負うリスクを低減させられます。
そこでオガラ氏ら研究チームは、VR技術を導入することで、患者に投与する鎮静剤(プロポフォール)の量を減らせるか実験しました。
2018年12月~2019年8月の間に局所麻酔による手の手術を受けた成人34名を対象に、VRがもたらす効果を確かめたのです。
患者はVR群(VRを見るグループ)と対照群(通常どおりのグループ)に分けられました。
そしてVR群は手術を受けている最中、ヘッドセットとノイズキャンセリングヘッドホンを装着し、草原や森、山上など、リラックスさせるような没入型360度VRを味わいました。
両グループとも、患者の要望や麻酔科医の判断により、鎮静剤を追加投与するできる状態にありました。
その結果、VR群では対照群に比べて、鎮静剤(プロポフォール)の投与量が有意に少なく、患者1人につき中央値で260mgも減少しました。
またVR群では17人中4人が鎮静剤を投与されましたが、対照群ではすべての患者に鎮静剤が投与されました。
さらに患者たちの自己申告によると、VR群と対照群で全体的な満足度に有意差はありませんでした。
両方のグループとも患者は「痛みが抑制されており、手術中リラックスできた」と述べていたのです。
加えて、術後回復室(手術終了後に全身の状態を監視し、安定した状態で一般病棟に橋渡しするための管理室。または「PACU」)の滞在時間が、VR群の方が平均22分早かったようです。
VRを用いるなら、リラックス効果を妨げることなく鎮静剤の投与量を減らせると分かりました。
これにより、リスクの低減だけでなく、素早い術後回復のメリットが得られます。
医療とVRは私たちが想像していた以上に相性が良いのかもしれませんね。