月の形成は思ったより短時間で終わった?
本研究では、テイア衝突後の月形成に関するシナリオを検討するため、「SPH With Inter-dependent Fine-grained Tasking (SWIFT)」と呼ばれるコンピュータプログラムを使用しました。
SWIFTは、大量の物質に作用する重力と流体力学的な力が複雑に絡み合い、常に変化する様子を綿密にシミュレートするよう設計されています。
さらに、このプログラムを正確に実行するべく、ダラム大学にあるスーパーコンピュータ「COSMA」を使用しました。
これらを駆使し、さまざまな角度、回転、速度で地球/テイアの衝突シミュレーションを行うことにより、かつてない高解像度で、衝突の余波をモデル化することに成功しています。
具体的には、従来のシミュレーションの場合、モデル化できる粒子の数は10万〜100万個ほどですが、今回は、最大で1億個もの粒子がモデル化されています。
その結果、衝突により生じた地球とテイアの破片は、わずか数時間のうちに月を形成した可能性が高いことが示されました。
実際のシミュレーション結果が、こちらです。
まず、テイアが地球にぶつかると、極端な高温によりドロドロに溶けた破片が無数に生じます。
地球の方は自転しながら、散乱した破片を取り込みつつ、元の形を整えようとします。
一方で、地球から細く伸びた破片の先に、大きな塊と小さな塊の2つが形成され、大きな塊の方は地球に取り込まれてなくなります。
ところが小さな塊は地球に吸収されることなくそのまま公転を続け、これが月となったのです。
このシミュレーションでいくと、月の表層は約60%が地球由来の材料となり、採取されたサンプルの組成に近づきます。
さらに現在の月と地球の軌道についても説明がつくとのことです。
しかし、このシミュレーション結果が本当に正しいかどうかを確認するには、より多くの月のサンプルが必要になります。
そして、そのミッションはNASAの「アルテミス計画」で実施される予定です。
ダラム大学の宇宙物理学者で、研究主任の一人であるヴィンセント・エケ(Vincent Eke)氏は次のように話します。
「月と地球の歴史は複雑に絡み合っています。
月がどのように誕生したかを詳しく知れば知るほど、私たちの住む地球の進化についても、より多くの発見ができるでしょう」