連星のジェット噴出により「2つのリング」が形成された
本研究を主導したライアン・クレアモント(Ryan Clairmont)氏は、スタンフォード大学に入学したばかりの非常に若い天文学者です。
クレアモント氏は「初めてキャッツアイ星雲を見たとき、その美しい構造に驚嘆しましたが、同時に、その3次元構造が完全に解明されていないことに、さらに驚きました」と話します。
そこでクレアモント氏は、メキシコ国立自治大学(UNAM)のヴォルフガング・ステッフェン(Wolfgang Steffen)氏とカナダ・カルガリー大学(University of Calgary)のニコ・コーニング(Nico Koning)氏に協力を依頼。
両氏の開発した3D天体物理モデリングプログラム「SHAPE」を使って、キャッツアイ星雲の3Dモデルを作成することにしました。
3Dモデリングに使用した星雲の画像は、NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)によって撮影されたものです。
加えて、メキシコのサン・ペドロ・マルティール国立天文台(OAN-SPM)の分光データを用いて、キャッツアイ星雲の新たな3D構造を再構築しました。
その結果、それまで知られていた構造とは違い、星雲を取り囲む一対のリングの存在が明らかになったのです。
こちらの画像の右側が、新たに作成された3Dモデルですが、中心部の外側に2つのリングが重なるようにして写っているのがわかります。
2つのリングは高密度のガスによって形成されていますが、驚くことに、お互いにほぼ完全な対称性を持っていました。
これを踏まえて、研究チームは、星雲の中心部に2つの星からなる連星システム(2つ以上の恒星が互いに引力を及ぼし合い、共通の重心の周囲を公転運動しているもの)が存在することを示している、と指摘します。
さらに、2つのリングは、これらの星が「歳差運動」をしながら、高密度のガスジェットを噴出していることを示していました。
歳差運動とは、自転している物体の回転軸が、円を描くように揺れる現象で、”失速するコマのぐらつき”に例えられます。
キャッツアイ星雲の場合、歳差運動をする星の回転軸からガスジェットが放出されていることで、ちょうどコンパスで円を描くように、上のようなリングが形成されたのです。
そして、これが連星であるために、左右対称の2つのリングが形成されたと見られます。
こうした解析からキャッツアイに見られる複雑な特徴は、ジェット放出の角度や方向が時間とともに変化することで形成された可能性が高いとわかりました。
またモデルを見るとジェット放出が360度一周していないことがわかりますが、これはリングの寿命が短いことに起因します。
そのため、きれいな環状にはなっていないようです。
本研究の成果は、キャッツアイ星雲の中心部に連星システムが存在することを示す初の証拠であり、惑星状星雲の形成について理解を深めるものです。
惑星状星雲は、太陽が最終的にたどり着く天体と考えられているため、形成プロセスの理解は、太陽の運命について詳しく知ることにもつながるでしょう。
研究主任のクレアモント氏は「自分自身の天体物理学的な研究が、実際にその分野に影響を与え貢献できたことに、とてもやりがいを覚えました」と述べています。