フサフサの毛には何のメリットがあるのか?
新種が保存された琥珀は、ミャンマー北部カチン州にあるフーコン渓谷で見つかったもので、2017年以前に採集され、他の琥珀と一緒に今日まで保管されていました。
この陸生カタツムリの化石は、白亜紀中期の約9900万年前にあたり、東南アジアなどの温暖な地域に分布するヤマタニシ科(Cyclophoridae)の新種新属であることが判明しています。
そこで研究チームは、新たな学名として「アーケオサイクロトゥス・ブレヴィヴィロサス(Archaeocyclotus brevivillosus)」と命名しました。
属名のアーケオサイクロトゥスは、「古代(Archaeo)」と「ヤマタニシ(cyclotus)」を合わせた造語で、種小名のブレヴィヴィロサスは、ラテン語の「短い・小さい(brevis)」と「毛深い(villosus)」に由来します。
つまり、「短い毛の生えた古代のヤマタニシ」の意です。
顕微鏡観察により、サイズは縦21ミリ・横26.5ミリ・高さ9ミリであり、さらに、マイクロCTスキャンを用いた3Dデジタル復元の結果、殻の外縁に沿って、短い毛が生え揃っていることが確認されています。
それぞれの毛は、長さ150~200マイクロメートル程で、殻の最上部のタンパク質でできた「殻皮層(periostracum)」から生えていました。
「毛の生えたカタツムリなんて珍しい!」と思いきや、実はそうでもなく、現代にも短毛の生えたカタツムリは存在します。
たとえば、国内の本州や四国には、オナジマイマイ科の「オオケマイマイ(Aegista vulgivaga)」といって、殻の縁に沿って太く短い毛が生えている種が分布します。
研究主任のアドリアン・ヨッフム(Adrienne Jochum)氏は「こうした”装飾(decoration)”の発達は、珍しくはないものの、やはり複雑なプロセスであり、通常は目的なく起こるものではない」と指摘。
「陸生カタツムリではこれまで、別々の科の複数種で、毛の生えた殻を持つものが見つかっており、進化の過程で、遠縁のグループでも毛深い殻が独立して何度か生じたことを示している」と続けます。
ヨッフム氏は「これは決して偶然ではない」と主張し、「毛深い殻は、陸生カタツムリに進化上の利点をもたらしている」と推測します。
氏が指摘する「毛」のメリットは、以下の通りです。
「たとえば、殻に毛が生えていることで、植物の茎や葉にしがみつくグリップ能力が向上していると思われます。
これは、今日のカタツムリでもすでに確認済みです。
また、毛と毛の間に水滴を吸着させることで、乾燥を防いだり、体を冷やす体温調節にも役立っているでしょう。
それから、今回見つかった新種に関していえば、中生代の熱帯林の林床にあった強酸性の腐葉土から、殻を保護するのに有用だった可能性があります。
さらには、剛毛がカモフラージュの機能を果たして、昆虫や鳥などの天敵から身を隠すことができたかもしれません」
このように、カタツムリの毛にはいくつもの利点があると予想できますが、それを証明するには、現生種を用いた実証が必要でしょう。