壮絶な死を遂げた農民の顔を復元
今回、モラエス氏と研究チームが復元に選んだ頭蓋骨は、スウェーデン歴史博物館(SHM)から寄贈されたもので、アゴの左から鼻にかけて深い傷跡を負っていました。
チームは、写真測量法(フォトグラメトリー:写真画像から対象物の幾何学特性を得る方法)を用いて、頭蓋骨を3Dスキャンし、傷跡の詳細を分析しました。
その結果、アゴから鼻にかけた傷跡の他に、目と頬の骨が棒状の鈍器で粉砕されていることが明らかになっています。
このスキャンデータをもとに、モラエス氏が筋肉や皮膚などの軟部組織をマッピング。
さらに目や鼻、口の大きさ、毛髪などは、遺伝子の統計データの平均値をもとにして、最も近いと思われる生前の顔を再現しました。
まず、傷を負っていない状態で復元されたのが、こちらの画像です。
そしてモラエス氏は、傷跡の状態の分析結果から、これが手斧の一撃によって付けられた可能性が最も高いと結論しました。
モラエス氏はこう話します。
「使用された可能性のある武器の選択肢の中で、斧が最も首尾一貫しているように見えました。そこで手斧をモデル化し、傷跡に一致するようにデジタル上で置いてみました」
こうして出来上がったのが、以下の画像です。
モラエス氏は「顔に刺さった斧を見るのは衝撃的でした」と述べ、「この傷跡が直接の死因になったかどうかは分かりませんが、骨や軟部組織に大きなダメージを与えたことは確かです」と説明します。
恐ろしい戦いの傷跡を残しているのは、この男性だけではありません。
他にも、頭蓋骨や脚の骨に深く食い込むような傷を負っている遺骨がたくさん残されています。
こうしたリアルな色彩とディテールで再現された陰惨な傷跡は、過去の戦争の残酷さを伝えるとともに、現在も続く戦争の恐怖を私たちに警告してくれる、とモラエス氏は指摘します。
「私はこの研究を通じて、戦争の実態がどんなものであるかを人々に理解してほしいと望みます。
この男性の顔は、戦争によっていかに悲惨な事態が起こり得るかを思い出させるものです」