世界初!幹細胞から作られた赤血球のヒトへの輸血試験が開始
幹細胞技術の進歩により、幹細胞からさまざまな人間の細胞や臓器を製造できるようになりました。
しかし製造された細胞や臓器の多くは研究用のものであり、医療目的で人体に供給できたものは、一部に限られています。
実験室で得られた成果を医療現場へ投入するには、安全性の証明など高い壁が存在していたのです。
幹細胞から赤血球や白血球を作る技術もまた壁に阻まれていた1つであり、技術的には確立されていたものの、医療現場への投入は足踏み状態にありました。
そこで今回、NHSBTの研究者たちは、この壁を打ち破るべく、幹細胞から培養された赤血球を人体に輸血する、世界ではじめての試みに挑みました。
最初の目的は、幹細胞から人工培養された赤血球の安全性と生存時間の測定でした。
これまでマウスや他の動物たちを用いた実験により、人工培養された赤血球が動物たちの健康にあまり悪影響を及ぼさないことが報告されていましたが、人間に試すのははじめてであり、慎重に調べる必要があったからです。
また生存時間を調べることで、人工培養された赤血球が人体において安定的に存在できるかどうかが確かめられました。
試験ではまず、人工培養された赤血球に安全な放射性元素でマーキングした後に、5~10ml(小さじ1~2杯)に相当する赤血球量が2人の健康な成人に投与されました。
研究者たちは人工培養された赤血球(マーキングされたもの)の生存期間は、通常の輸血液中の赤血球よりも長くなると予想しています。
赤血球の平均的な寿命は120日とされていますが、私たちの体内を流れる赤血球にはうまれたばかりの若い赤血球だけでなく、寿命間近の老いた赤血球も含まれています。
そのため通常の輸血液に含まれる赤血球の平均寿命は120日を大幅に下回ります。
一方で人工培養されたばかりの赤血球は、全てが若い状態にあり、同じ容量でも、より長期間にわたり、より効果的に働くことが可能だからです。
現在、人工培養された赤血球を投与された被験者たちには有害な副作用は観察されておらず、今後10人程度まで被験者を増やし試験を継続していく、とのこと。
もし幹細胞から赤血球を大量に生産できるようになれば、定期的な輸血を必要とする複雑な病状を持つ人々にとって、大きな希望になるでしょう。
これまで蓄積された医療データによれば、通常の輸血を繰り返し行っていると、患者の免疫システムが輸血された赤血球を異物として認識し攻撃してしまうケースが知られており、以降の輸血を困難にしていました。
しかし事前に赤血球の元となる幹細胞を患者の体にあわせて選んでおけば、免疫システムの誤作動を回避することが可能です。
研究者たちは、患者に適合性の高い赤血球を製造することができれば、より多くの人々により安全な輸血ができるようになると述べています。
(※今回の研究は献血の必要性を否定するものではありません。現在、人工的に赤血球を生産する能力は非常に限られており、まずは特殊な血液障害を持つ人々に対して優先的に提供されることになっています)