「おじぎ」を引き起こすシグナル分子の動きを解明!
当然ながら、植物には葉や根を自在に動かすための神経および筋肉がありません。
しかしオジギソウは、ある程度の強い刺激を感じると、「葉枕(ようちん)」という運動器官を曲げて葉をスピーディーに閉じていきます。
おじぎ運動の研究はダーウィンの時代から続いていますが、この高速運動を引き起こすシグナル分子の正体やおじぎの役割は長らく不明のままでした。
そこで研究チームは、おじぎ運動を起こしているシグナル分子を特定するため、カルシウムイオン(Ca2+)の蛍光バイオセンサー(GCaMP)を発現させた「光るオジギソウ」を作成。
これによって、接触や傷害などの刺激が発生したときのCa2+シグナルを可視化しました。
※ カルシウムイオンは、筋肉の収縮や神経伝達など、数多くの生理学的役割を果たすことで知られている。
そして葉をハサミで傷つけたところ、葉枕で次々にCa2+シグナルが発生し、葉がパタパタと閉じていったのです。
傷害後、だいたい2.5秒でCa2+シグナルが発生し、そのわずか0.1秒後には葉が閉じ始めました。
こちらは、刺激によりCa2+シグナルが発火する様子を可視化したものです。
また、おじぎ運動には古くから、活動電位のような電気シグナルが関与していることが示唆されています。
チームは、Ca2+シグナルと電気シグナルとの関係を探るべく、両方のシグナルを同時測定できる技術を開発し、2つのシグナルを解析しました。
その結果、オジギソウに刺激を与えると、傷ついた部位から両方のシグナルが発生し、葉脈などを介して全身にすばやく伝播することが分かったのです。
このとき、双方のシグナルの時空間情報(同じ速度で、同じ地点を通過)が見事に一致していました。
そしてオジギソウの葉を閉じる運動は、Ca2+チャネルを阻害する薬剤やCa2+を除去する薬剤で処理すると起こらなくなりました。
このことから、カルシウムイオン(Ca2+)が「おじぎ運動」を引き起こすスイッチ(長距離・高速シグナル)として働いていたと結論できます。
チームは次に、おじぎ運動の生理学的な役割を解明することにしました。