味わいを損なうことなく、食物繊維を増やす
食物繊維は、ヒトの腸内で消化されない難消化性成分であり、消化器官の機能を向上させ、健康を維持する効果があります。
食物繊維を多く摂るほど、肥満や2型糖尿病を予防し、心血管疾患のリスクを低減できることが知られています。
食品産業ではすでに人工的に繊維量を増やす方法がありますが、一方で、食品の繊維含有量を10~20%増加(健康効果が期待される量)させつつ、同時に味や食感、色を損なわないことが非常に困難となっていました。
十分量の人工繊維を添加すると、どうしても食品の味や色が変わったり、食感が硬くなったりしてしまうのです。
そこでRMITの研究チームは、デンプン加工装置を提供するエンジニアリング企業・Microtec Engineering Group(MEG)と協力し、食品の味わいを維持しつつ、繊維量を増加できる改良デンプンを開発しました。
それが「FiberX」です。
チームは、小麦・トウモロコシ・キャッサバから抽出したデンプンの構造を分子レベルで改良することで、元のデンプンの約80%を食物繊維に変換することに成功しています。
(ちなみに、デンプンは動物が消化できる炭水化物で、食物繊維は動物が消化できない炭水化物です)
次に消化酵素を使って、FiberXがどれほどの消化耐性を持つかテストしたところ、実際の食物繊維と同様に、ヒト腸内で消化されにくい難消化性を発揮することが確認されました。
さらに味覚テストの結果、FiberXを添加した食品は、味や食感に違いが出るまでに、繊維量を最大20%も増加させられることが判明しています。
よってチームは、FiberXをパンやピザ、ケーキ、パスタなどの低繊維質の食品に加えることで、より健康的な食品にすることができると考えています。
またFiberXは、食品のカロリーやGI(グリセミック指数)を低下させるのにも役立つとのこと。
GIとは、食品ごとの血糖値の上昇度を示す指標のことで、GI値の低い食品は食後血糖値の上昇が穏やかになります。
低GI食品としては、大豆、きのこ、ヨーグルトなどが知られ、高GI食品には、ピザやケーキ、ドーナツなどが含まれます。
RMITの食品技術者で、研究主任のアスガー・ファラナキー(Asgar Farahnaky)氏は、次のように述べています。
「従来の方法では、食品の味や食感が変わってしまうことが課題でしたが、FiberXは食品に添加しても全く目立つことはありません。
ちょうど、母親が子どもの食事に野菜を隠して栄養価を高めるようなものです」
研究チームは現在、MEGと提携して、FiberXを安価なコストで大量生産し、製品として市場に売り出す方法を模索しています。
とはいえ、実際に私たちの手元に届くまでには、まだいくつかの段階を踏まなければなりません。
食物繊維は腸内細菌叢に大きな作用を及ぼすため、改良デンプンであるFiberXがヒト体内に生息する微生物にどんな影響を与えるかも評価する必要があるでしょう。
しかし、そうした点がクリアできれば、FiberXは私たちの強い味方になるはずです。
ファラナキー氏は「FiberXを使えば、食品に含まれる食物繊維量を調整できるため、摂取する食品が少なくても、1日に推奨される摂取量を確保でき、体重管理や肥満、糖尿病の予防に役立つでしょう」と述べています。