ゾウのような鼻だけでなく、電気センサーで障害物を回避!
エレファントノーズフィッシュ(学名:Gnathonemus petersii)は、アロワナ目モルミルス科に属する淡水魚の一種で、アフリカ中部と西部の川を原産地とします。
平均寿命は6〜10年と推定され、野生下では全長20センチを超えるまでに成長します。
食性は肉食で、水中にいる昆虫やその幼虫を食べているようです。
彼らの生息する流域は一般に、かなり濁っていて視界が悪いことで知られます。
これは川底に沈着物やゴミが溜まっていることも関係しますが、主には川の流れが非常に緩慢で穏やかなことが原因です。
こうした環境下で生き抜くには、餌や仲間を探したり、障害物を回避するようなスキルを身に付けなければなりません。
そこで最初に活躍するのが、ゾウのような長い鼻です。
しかし、「ゾウの鼻」と呼ばれるこの長い突起は正確にいうと鼻ではありません。
これは下アゴ部分が下方に垂れるようにして伸びたものです。
こんな長い突起では餌が食べにくくなるようにも思われますが、彼らは視界の悪い泥の川底に生息しているので、突起を使って泥をまさぐることで、その中に隠れた獲物が捕食しやすくなるのです。
加えて、細長く伸びた突起は感覚的にも鋭敏に発達しており、周囲の障害物をチェックするのにも役立ちます。
私たちに例えるなら、暗闇の中で杖を伸ばして足元や目の前に障害物がないかどうか確認するようなものでしょう。
さらに注目すべき点として、彼らは「エレクトロ・ロケーション(electrolocation)」の達人でもあります。
エレクトロ・ロケーションとは「電気定位」とも呼ばれ、生体が発する電気を検出することで、周囲の状況を読み取る能力です。
エレファントノーズフィッシュの皮膚には、他の生物が発する微弱な電流を鋭く感知するための受容器が全身に張り巡らされています。
この皮膚センサーにより、周囲の電場の変化を読み取って、障害物を避けたり獲物を見つけたりできるのです。
これと別に、彼らは尾部に「発電器官」を持っていて、自ら微弱な電気を発してレーダーのように使うこともできます。
たとえば、尾部から全身を覆うように発された電場が木の枝や石ころで妨げられると、その変化を検出して障害物を特定するのです。
また電気をセンシングするためか、彼らの脳は大きく発達しており、身体に対する脳の重量比は3%で、2%前後とされるヒトを上回っています。
しかも、脳の酸素消費量の割合は60%にも達するという。
これは一般的な脊椎動物における脳の酸素消費量が2〜8%、ヒトでも約20%であることを考えると非常に大きく、脊椎動物の中では最大と言われています。
一方で、エレファントノーズフィッシュは、水槽内での飼育が上級者でも難しいことで有名です。
野生下の広々とした環境では彼らの気質も穏やかで、トラブルを起こすのが好きではなく、至って平和的に生きています。
ところが、狭い水槽の中で同種の仲間や他種の熱帯魚と混泳させると、強いストレスを感じ、縄張り意識を持ち始め、急に攻撃的になるという。
また、野生下では基本的に視界が悪く暗い環境で過ごしているので、明るい水槽内は苦手です。
それから水質や水温の変化にも敏感に反応し、水槽内での繁殖はほぼ不可能。
これまで飼育下で繁殖に成功した例もないと言われています。
エレファントノーズフィッシュの特殊な生態は、過酷な自然環境を生き抜くために進化したものであるため、水槽のような管理された環境にはあまり向いていないようです。