子どもを産むほど、頭が悪くなってしまう?
本研究では、南アフリカ北ケープ州にあるクルマン川保護区にて、野生のシロクロヤブチメドリ38羽を集め、認知テストと年齢、性別、産卵数との関係を調べました。
同地の個体群は2003年からモニタリングされており、人の存在にも慣れているため、認知テストなども容易に実施できたといいます。
今回の調査データは、2018年、2019年、2021年の9月〜翌3月の3回に分けて収集されました(2020年はコロナのため中止)。
まず認知テストでは「連想学習」「逆転学習」「抑制能力」の3つを測定します。
実験では、小さな木製ブロック(7 × 18cm)に円形の穴(直径3cm、深さ2cm)をあけ、異なる2色のフタをしたセットを用意。
どちらか一方に好物のミールワームを入れてフタをし、38羽に餌が入っているフタの色を学習させます。
その訓練後、実際のテストで餌が入っている方を1番目に開けられたら「連想学習」は合格となります。
さらに、この24時間後に餌が隠されている色を入れ替えて同じテストをしました。
これが「逆転学習」で、タスクの内容が変わったことに対応できるかを調べます。
次に「抑制能力」のテストでは、餌をゲットするのに”意味のない無駄な動き”をどれだけ抑制できるかが試されます。
実験では、木製ブロックの土台に透明の衝立を設置し、その衝立越しにミールワームを見せます。
衝立は鳥の正面側に設置してあるだけなので、衝立を迂回して回り込めば餌は手に入ります。
このテストでは透明な衝立をきちんと迂回できれば合格、餌目がけて衝立をつつけば失敗と判断します。
以上3つの総合点により、それぞれの鳥の「一般的認知能力(general cognitive performance:GCP)」を評価しました。
GCPとは、周辺環境の情報を読み取り、処理し、その結果に従って効率的に行動する能力のことです。
これが高いほど、餌や営巣場所を見つけたり、同種間でのコミュニケーション(異性を誘引したり、ライバルと争う)能力が高くなると考えられます。
データ分析の結果、メスのGCPは若いときにピークを迎え、年齢を重ねるほど低下することが示されました。
さらにGCPが低下したメスほど、年間に産むヒナの数が増えていることが判明したのです。
オスでは異なる年齢間でもGCPに有意差はあらわれていません。
つまり、メスにおけるGCPの低下は、加齢よりも産卵数の増加と深く関連していると考えられます。
研究主任のカミラ・ソラビア(Camilla Soravia)氏は、この結果について「シロクロヤブチメドリの認知能力と繁殖成功の間にトレードオフ(両立できない関係性)が存在することを裏付けている」と指摘しました。
これまでの研究で、シロクロヤブチメドリ(特にメス)の繁殖は非常に競争的であることが分かっています。
たとえば、メスは互いに優位に立つために、オスの注意を引こうと争ったり、ライバルの産んだ卵を破壊したりするのです。
これにはかなり頭を使う必要があり、加えて、高い認知能力には多大なエネルギーがかかります。
そうすると、最も大切な卵を産むためのエネルギー容量がなくなり、子孫を残すことが難しくなるでしょう。
歳を重ねたメス鳥は、こうしたライバル間の蹴落とし合いが有益でないことを経験で理解し、「頭の良さ」ではなく「卵を産む」方にエネルギーを費やしているのかもしれません。