赤ちゃんの手足の「もぞもぞ動き」には意味があったと判明!
野球でも剣道でも一流の選手ほど、基本の型を重視します。
基本の型の繰り返しの練習が、より高度な技法を完成させるために必須であると考えられているからです。
では「歩行」のような人間が当たり前に習得している動作にも、同じような基礎練習が必要なのでしょうか?
あまり意識したことはないかもしれませんが、私たちが何気なく行っている歩行や跳躍、物体の運搬や投擲といった基本的な運動は、全身の高度な調整能力を必要とします。
古くから信じられていた説によれば、生まれて間もない赤ちゃんたちにみられる、手足をもぞもぞと動かす動きこそが、後の歩行などの複雑な協調行動の基礎練習になっているとされていました。
しかし、赤ちゃんたちが手足を「もぞもぞ」させているときの「もぞもぞ」の具体的な中身、つまり赤ちゃんたちの感じている感覚や運動がどんなものであるか、どのような意味を持っているかの検討は、十分に行われていませんでした。
そこで今回、東京大学の研究者たちは、新生児(生後1週間未満)12人と乳児(生後3カ月未満)10人の赤ちゃん被験者たちを対象に、手足の「もぞもぞ」動きの科学的な分析を行うことにしました。
調査にあたってはまず、赤ちゃん被験者たちの手足の関節12カ所にモーションセンサーを取り付け「もぞもぞ」動きのデータを取得し筋肉と感覚の間を流れる情報についてデータ解析を行いました。
結果、上の図のように、関連性の高い22個の感覚運動モジュールを抽出することに成功します。
またこれら22個の間で生じている情報の流れの密度を比較したところ、新生児に比べて乳児は反射的な運動が少なく、意思に基づく随意運動が増加している可能性が示されました。
さらに時系列的に赤ちゃんたちの感覚と運動の状態(12種類を特定)を並べたところ、赤ちゃんたちは時間経過とともにさまざまな状態をさまようように推移していることが判明します。
研究者たちはこの推移を「感覚運動ワンダリング」と命名します。
また状態の推移パターンを調べたところ、一定の連続するパターンが発見され、新生児に比べて乳児は3連パターン(例:状態2➔状態1➔状態2)の出現率が高くなっていました。
これらの結果は、赤ちゃんたちは一見して意味がないような手足の「もぞもぞ」を介して、感覚と運動に関する時間的・空間的パターンを獲得している可能性を示唆します。
赤ちゃんたちは生まれた直後から手足を自発的に「もぞもぞ」させることで、自分の感覚と運動能力を徐々に体得していく「下積み」を行っており、後の歩行などより高度な全身運動に必要な準備を行っていたようです。
研究者たちは、赤ちゃんたちの発達過程を解明することができれば、人間の脳が神経システムをどのように成熟させていくかの重要な手掛かりになると述べています。