魚のあくびにも「覚醒作用」がある?
私たちヒトを含む内温動物では一般に、あくびが行動変化の前触れとして生じることが指摘されています。
また近年の研究では、あくびに生理学的な覚醒作用があることが明らかになってきました。
あくびに詳しい米ニューヨーク州立大学(SUNY)のアンドリュー・ギャラップ(Andrew Gallup)氏によると、あくびは「冷たい空気の吸入と口腔周囲の筋肉のストレッチを同時に行うことで、脳への冷えた血液を増加させ、体温調節をしている」という。
たとえば、あくびは食後に体が温まったときによく出ますが、これは体が脳を冷やして集中力を回復させようとしている証拠なのです。
こうしたあくびの覚醒作用ゆえに、動物たちの不活発〜活発な状態への移行が促されていると考えられています。
これがあくびの「状態変化仮説 (state-change hypothesis)」と呼ばれるものです。
他方で、この仮説は陸上の鳥類や哺乳類、あるいはイルカやアザラシなどの海洋哺乳類では確認されているものの、外温動物である魚類では、逸話レベルの観察記録しか報告されていませんでした。
魚があくびをすること自体は知られているのですが、それが何の目的で、またどんなタイミングで発生するのかは不明だったのです。
外温動物における状態変化仮説の検証が正式な研究として行われたこともありません。
そこで研究チームは今回、北海道の野外で採集したイワナの稚魚41匹を対象に水槽での観察調査を行いました。
各個体につき10分間の映像を撮影し、稚魚のあくび、着底行動(水底に接地し動かない状態のこと)、遊泳行動をデータ化。
そして観察されたすべてのあくびについて、発生から行動変化(着底→遊泳)までの時間を記録しました。
その結果、41匹の稚魚のうち23匹で合計48回のあくびが観察されたのです。
さらに、このうち32回は泳いでいる最中ではなく、水底でじっとしているときに観察され、特に着底〜遊泳に移る直前に多く集中していました。
つまり、この結果は魚類における「状態変化仮説」を支持する結果といえます。
本研究の成果は、外温動物である魚類のあくびに、内温動物のあくびと共通する機能が存在することを示唆するものです。
魚たちも活発な行動を促すために、あくびをしているのかもしれません。
加えてチームは、この結果があくび自体の起源を理解する上でも役に立つことに期待しています。
言うまでもなく、生命は海で最初に誕生し、魚類は哺乳類よりはるか以前から存在していました。
今のところ、魚類は地球上で最初にあくびをした動物と考えられています。
今回の研究は、魚類のあくびへの理解だけでなく、動物界におけるあくびの起源の理解にも重要な貢献を果たすでしょう。