ホンソメワケベラは「顔」で自分と他人を見分けていた!
ホンソメワケベラがミラーテストに合格できることは同チームの先行研究ですでに証明されています。
チームは2019年のミラーテストで、野生のホンソメワケベラを鏡付きの水槽に入れて、1週間鏡の前にさらしました。
このとき、魚の喉のすぐ下に茶色の染料でマークを付けています。
これはホンソメワケベラが他の大きな魚の皮膚から食べる寄生虫に似せた印です。
すると、印を付けられた魚は鏡に映った自分の姿を見て、喉を水槽の岩や砂利にこすり付けて、寄生虫を剥がそうとし始めました。
これはホンソメワケベラが鏡像を「自分だ」と認識していることを示します。
こちらが実験を撮影した30秒ほどの映像で、喉を頻繁に擦り付ける様子が確認できます。
ミラーテストに合格できる動物としては他に、チンパンジーやイルカ、シャチ、ゾウ、カササギなどが知られています。
そこで本研究では、この内容をさらに発展させて、写真の中の自分を認知できるかを調査しました。
というのもミラーテストでは、自分の動きと鏡像の動きが一致するのを見て「これは自分だ」と学習している可能性が高いからです。
今回の実験ではまず、ミラーテストに合格した10匹のホンソメワケベラを対象に、自分の写真と他の個体の写真を提示しました。
ホンソメワケベラは見慣れない相手に対しては攻撃的な態度を取ることで知られますが、実験の結果、10匹すべてが自分の写真には攻撃的にならず、他の個体の写真にだけ攻撃をしかけたのです。
これはミラーテストが、個々の魚に「自分の姿がどのようなものか」を学習させる役割を果たしていることを示唆します。
次に、ホンソメワケベラがどの部位を見て「自分だ」と認識しているかを調べるため、ミラーテストに合格した別の6匹の個体を用いて調査。
実験では「自分の写真」「別の魚の写真」「顔は自分で体は別の魚の写真」「顔は別の魚で体が自分の写真」の4種類を見せました。
その結果、「別の魚の写真」と「顔は別の魚で体が自分の写真」にのみ攻撃的になったことから、ホンソメワケベラは「顔を目印に自分と他者を見分けている」ことが示されたのです。
以上の結果を受けて、研究主任の幸田正典(こうだ・まさのり)氏はこう話しています。
「宗教的背景の影響もあり、西洋的価値体系は、ヒトを頂点とし動物を低く見なすという生命の価値観を築いてきました。
本研究では魚が自分の写真を見て自分だと分かる、つまり”自分を認識している”ことを明らかにしました。
これは魚にも”こころ”があることを示しています。
従来の人間中心主義の価値感を見直す時が来ているのかもしれません」
また今回の結果は、ミラーテストに合格した他の動物にも「写真自己認知」の能力があることを示唆するものとなるでしょう。
一方で、「ミラーテストに不合格だったからといって、自己認知が欠如していると考えるべきでない」とする研究者の声もあります。
たとえば、サルやカラスは動物界でもトップクラスの知能を誇りますが、ミラーテストには合格していません。
また、イヌのように視覚より嗅覚に頼る種や、ブタのように体に付いた跡(マーク)を気にしない種では、正確にミラーテストができないとも指摘されています。
これらの動物たちは、それぞれの得意な感覚を活かした方法で自己認知をしているのかもしれません。