なぜ太平洋側の大雪予測は難しいのか?
冬の大雪をもたらす気候メカニズムは日本海側と太平洋側で大きく違います。
日本海側では、西高東低の冬型の気圧配置により大陸から冷たい北西季節風が吹きます。
その冷たい風が日本海をわたってくる際に、風より温度の高い海面からたくさんの水分を取り込んで水蒸気を生成。
それが日本列島の中央につらなる山脈にぶつかって上昇し、大量の雪雲が出来上がるのです。
この雪雲が日本海側の山間部や平野部を覆って、降雪をもたらします。
ここでは主に、寒気の程度が強いか風速が強いほど大雪になりやすいので、降雪量の予測も比較的しやすくなっています。
しかし、この雪雲は本州を縦断する山脈にブロックされるため、太平洋側にはあまり届きません。
そこで、太平洋側での大雪は「南岸低気圧」によるものがほとんどとなります。
南岸低気圧とはどんなもの?
冬型の気圧配置が崩れる2〜4月頃になると、日本列島の南側を西から東へ通過する低気圧が多くなります。
これが「南岸低気圧」です。
この低気圧は西日本と東日本の南の海上を通過することで太平洋側に雨や雪をもたらします。
こちらは南岸低気圧を示した模式図です。
関東の南海上にある南岸低気圧から「降水をもたらす雲域」が北東に広がる様子を示しています。
雲域の広がりは主に低気圧の通る位置が北か南かで変わり、それによって雨や雪が降るかどうかも変わります。
また、同じ位置を通っても降水をもたらす雲域の広がりが小さく届かない場合は、雨や雪が降りません。
そのため、南岸低気圧による雨や雪の予報は「低気圧の通るコース」と「降水をもたらす雲域の広がり方」の両方について正確に予測しなければならないので、予想が難しくなるのです。
雨の予想だけでも難しいのですが、雪の場合はこれに「気温の予測」も加わるのでさらに予想が難しくなります。
上空の雲の中で作られる降水は基本的に雪でスタートし、そのまま解けずに地上まで届くと「降雪」として、途中で解けると「降雨」として観測されます。
たとえば、地上から上空までの空気の全層が氷点下であれば、簡単に「雪が降る」と予測できますが、南岸低気圧には南側から暖かい空気がしばしば流れ込むため、途中にある空気層の気温がプラスになることもあるのです。
こうなると「雪が降るか、雨が降るか」の判断は難しくなります。
雪の予想をさらに困難にする要因
空気層の気温が途中でプラスになっていても、その層が薄い場合は雪が解け切る前に通過することがあります。
一方で、この空気層が十分に厚ければ、雪は解けて雨となるでしょう。
ところが、雪が解けると周囲の空気から熱が奪われるため、空気の層が冷やされるという現象が発生します。
その結果、空気の温度が氷点下になって雪が解けなくなるのです。
こうした空気を冷やす効果をあわせて考慮する必要があるため、「雪が降るか、雨が降るか」の予想はさらに困難になります。
気象予報士はこれらの情報を総合的に分析し、「降雪の可能性が高い」と判断した場合にのみ雪の予報を発表します。
またその際は、予想される降水量と気温から降雪量を予測するのですが、気温の1℃程度の差により、同じ降水量でも降雪量が大きく異なるケースも多々あるという。
さらに、この降雪量予想から大雪となる可能性が高いと判断した場合は、事前に「大雪に関する気象情報」の発表を行い、その後、大雪の可能性が高くなるにしたがって「大雪注意報、大雪警報」を発令し、市民に警戒や避難を呼びかけていきます。
まとめると、太平洋側の大雪は「低気圧の発達度合い」「進路や速度」「気温の低下」「湿った空気の流れ込み」といった気象条件を考えなければならないので、予想がとても難しいのです。