血液中でガス成分を捕まえて、尿として排出!
総務省消防庁によると、日本国内の建物火災では、死亡者の約4割が「一酸化炭素(CO)」や「シアン化水素(HCN)」などの火災で発生したガスの吸引による中毒死となっています。
通常、私たちの血液中ではヘモグロビンが酸素を全身に運搬してくれていますが、一酸化炭素を吸い込むと、ヘモグロビンと強く結合して酸素の運搬を阻害し、好気性呼吸(酸素を使った呼吸)ができなくなります。
またシアン化水素は、細胞内にあるミトコンドリア中のチトクロームオキシダーゼという酵素と結びつき、細胞呼吸を阻害します。
2019年に発生した京都アニメーション放火事件でも、死者36名のうち7割が火災ガス吸引による中毒死でした。
現時点で、一酸化炭素(CO)やシアン化水素(HCN)を現場で解毒できる特効薬は存在せず、治療法の開発は喫緊の課題となっています。
そんな中、同志社大学理工学部の北岸宏亮(きたぎし・ひろあき)氏の率いる研究チームは、血液中の一酸化炭素やシアン化水素と強く結合する化合物「hemoCD-Twins」の作製に成功したと報告しました。
北岸氏は20年以上にわたり、中毒ガスを解毒する合成ヘムモデル化合物(hemoCD)の研究を続けています。
今回開発されたhemoCD-Twinsの主な仕組みは、2種の合成ヘムモデル化合物を混ぜて血中に投与することで、有毒ガスの成分を吸着し、尿として排出するというもの。
具体的には、hemoCD-Twinsが血中で「hemoCD-P」と「hemoCD-I」という2つのヘムモデルに分解され、前者が一酸化炭素(CO)を、後者がシアン化物イオン(CN-)を補足することで解毒します。
実験では、一酸化炭素とシアン化水素を吸引させたマウスにhemoCD-Twinsを投与して、効果を検証。
その結果、hemoCD-Twinsを投与された13匹のマウスのうち、11匹(85%)は数分で血圧が正常に戻り、生き残ることに成功しました。
また血液中で中毒ガスと結合した化合物の大半は、投与から約2時間で尿として排出されています。
対照的に、化合物を投与しなかった18匹のマウスはすべて1時間以内に死亡したとのことです。
この結果からhemoCD-Twinsには、高い解毒作用と即効性があることが認められました。
チームは今後、臨床試験により人体への効果や安全性を確認した後、実用化に向けた医療用医薬品の承認を取得したいと話しています。
目標では5〜10年以内に救急車や救急病院におけるhemoCD-Twinsの常備搭載を目指しているという。
北岸氏は「hemoCD-Twinsは火災による死亡者を大きく減らすポテンシャルを持っており、大量生産できる体制を整えて、実用化につなげたい」と述べています。