すでに5万光年以下の距離にまで近づいている
撮影されたのは、地球からうしかい座(Boötes)の方向に約10億光年離れた場所にある天体「SDSSCGB 10189」です。
この天体は互いに接近する3つの銀河から成っており、すでに5万光年以下の距離にまで近づいています。
5万光年と聞くと、衝突の危険性のない長大な距離のように思われるかもしれませんが、宇宙の規模からすると非常に近い距離です。
たとえば、地球がある天の川銀河とそれに最も近いアンドロメダ銀河の間でさえ、約250万光年も離れています。
もっと言うと、天の川銀河の半径が約5万光年ですから、3つの銀河の間隔は天の川銀河内に収まる距離しか離れていないのです。
現に画像内の右側に見える2つの銀河は互いの重力で、すでに形に歪みが出ています。
左側にポツンと佇む銀河はまだ綺麗な渦巻き構造を維持していますが、やがては右手にある2つの銀河と合体する運命にあります。
この画像は、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」と「広視野カメラ3(WFC3)」で収集されたデータをもとに作成されました。
ACSは紫外線から近赤外線まで目に見えない領域をカバーでき、WFC3は可視光領域を撮影するための最も進歩した技術のカメラです。
ESAの研究者によると、SDSSCGB 10189の観測は、天文学者らが「BCG(Brightest Cluster Galaxies)」 と呼ぶ天体の起源を探る研究の一環として行われたとのこと。
BCGとは、銀河団の中心部に必ず存在するもっとも明るく輝く銀河のことで、銀河団の形成や進化に深く関連していると考えられています。
いわば多くの銀河があつまる銀河団においてコアのような役割をしている銀河がBCGです。
ちなみに宇宙において天体が集まったグループは、その規模に呼び方が変わっていきます。
星系(太陽系など) < 銀河 < 銀河群 =< 銀河団 < 超銀河団 < 宇宙の大規模構造(宇宙網)
こうして見るとわかるように銀河団は宇宙の中でもかなり大きな天体のグループです。
その形成に関与するBCGのような巨大な銀河がどのようにして形成されるかは、多くが謎に包まれています。
現在BCGの形成については、大きな銀河が小さな銀河を飲み込んだり、先の3つの銀河のようにガスに富む銀河同士が衝突・合体することで形成されると考えられています。
下の画像はケンタウルス座の方向に約4億5000万光年離れた場所にある銀河団「Abell S0740」の、BCGです。
このBCGは、太陽の1000億個分に相当する質量があるという。
BCGについては、その形成にかんする予想はあるものの、具体的にどのようなプロセスを辿って形成されるかはよく分かっていません。
人間が生きる時間スケールで、巨大な天体の形成を目撃することはかなり困難です。
しかし今回の3つの銀河は互いに合体するとBCGを形成する可能性があると指摘されているため、非常に注目されています。
また、銀河団内の個々の銀河をつなぐチリやガスの道路網のようなフィラメント構造は、いわゆる「宇宙網(コズミック・ウェブ)」の生成についても、ヒントを与えてくれるのではないかと期待されています。
銀河団の形成やBCGの形成の初期段階と見られる今回の3つの銀河の合体は、宇宙の進化を知る上でも重要な存在になるかもしれないのです。
BCGをめぐっては、138億年の宇宙の歴史の中でどのような時期に形成されたか、についても議論が続いています。
ある天文学者は、この巨大な明るい銀河は、宇宙が現在の年齢の約19%だった初期の時代に形成されたと考えています。
また、BCGは現在も形成・進化を続けていると考える専門家もいます。
SDSSCGB 10189の合体は、BCGの誕生につながる可能性があり、巨大で明るい銀河がいつどのように形成されるかという謎に、ついに光を当てることができるかもしれません。