アブ避けに大事なのは「白黒コントラスト」の強さ?
シマウマの縞模様の機能については、少なくとも19世紀以来、研究者たちが様々な仮説を立てています。
最も多いのが「捕食者を混乱させる効果」で、シマウマの集団が集まると、白黒の縞模様のせいで個体の区別がつきにくくなり、天敵が標的を絞りにくくなるという説です。
他には、シマウマの体温調節に縞模様が役立っているという説や、縞模様が仲間同士を見分けるための指紋のような役割を果たしているという説もあります。
しかし近年最も注目されている仮説は、縞模様に吸血害虫であるアブの着陸を抑止する効果があるというものです。
アブは恐竜時代から地球上に存在し、大型動物の皮膚にとまって血を吸う厄介者となっています。
私たちなら寄ってきたアブを手で振り払うことができますが、常に4つ足を地に着けているシマウマはアブを追い払うことが困難です。
普通なら刺され放題になってもおかしくありませんが、不思議なことに、アブはなぜかシマウマの体に着陸するのを避けることがこれまでの多くの研究から示されています。
アブが馬自体を避けるという報告はないため、ここからはアブがシマウマの縞模様を嫌っている可能性が示唆されるのです。
そこで研究チームは、アブがシマウマの縞模様のどんな特徴を嫌っているのかを理解すべく、実験を開始。
シマウマは人に従順ではなく扱いが困難であるため、実験では調教された馬を用いて、さまざまな種類の模様を施した布のコートを着せました。
今回試したのは、白黒のチェック柄・ランダムに配置されたチェック柄・白地に黒い三角形のストライプ・黒地に白い三角形のストライプ・グレーの単色・バーク柄(樹皮のような不規則な模様)の6つです。
そして、それぞれの模様に対して、アブがどれだけ近寄ってくるかを測定しました。
その結果、最も多くアブを引きつけたのは模様のないグレーの単色コートでした。
次に多かったのは白黒のコントラストが弱い模様で、バーク柄やチェック柄にもアブが集まっています。
そして最もアブ避けの効果が高かったのは白黒のコントラストが強い模様で、特に「黒地に白い三角形」が最も高い効果を発揮していました。
これは言うまでもなく、シマウマに一番近い模様です。
それに比べると、白地に黒い三角形のストライプは抑止効果が劣っているようでした。
これについて、研究主任のティム・カロ(Tim Caro)氏は「アブのいる空側に向かって暗い部分の輪郭を減らすことができる模様ほど、アブ避けの効果が高いと見られる」と指摘します。
というのも今回の実験によると、アブは大きくて暗い部分により多く集まる傾向が強いことが分かりました。
すると、背中側(アブのいる空側)に白い部分が多い「黒地に白い三角形」の模様はアブから見えにくくなっているか、着陸地点を絞りづらくさせているものと予想されます。
一方で「太陽の光を反射しやすい模様ほど、アブが多く集まる」という以前に主張されていた仮説も試してみましたが、その証拠は得られませんでした。
日光を反射しづらい模様にも普通にアブは集まってきたようです。
以上の結果から、シマウマの縞模様は、白黒ストライプのコントラストが強いことでアブ避けとして機能していることが支持されました。
しかしカロ氏は「まだすべての疑問を解決したわけではない」と話します。
最も大きな疑問は、シマウマの縞模様がそれほどアブ避けに有利なのであれば、なぜ他のウマ科動物は同じ模様を進化させないなのかという点です。
研究チームはシマウマの縞模様の効果にかんする研究を続けており、以前はハエに対する縞模様の効果を検証した研究も報告しています。
カロ氏は今後こうした問題を踏まえつつ、シマウマの縞模様についてさらなる調査を進めていきたいと述べています。
とりあえず、アブの多い場所にはシマウマ柄の服を着ていくといいかもしれません。