人間の最長寿命は「今後数十年で大幅に延びる」かもしれない
分析には、死亡率に関する世界的なデータベース「Human Mortality Database」から、現在先進国である19カ国の人々の出生・死亡データが用いられました。
また「ゴンぺルツの法則」と呼ばれるヒトの年齢と死亡率の関係を表す法則(年齢に対して死亡率は指数関数的に増大する、という考え)を用いました。
そして出生の年代(1700年代以降)ごとにグループを作り、死亡率や最長寿命がどのように推移しているのか、また現在の世代のグループの死亡率がどう変化していくのか推測しました。
この分析では、出生年代ごとのグループが、次の2つの傾向のうち、どちらを示しているかを調査しました。
1つは、「死亡率の圧縮」と呼ばれる傾向です。
これは人々がより健康的に過ごせるようになったものの、高齢になった後、死亡率が急激に上昇するという現象です。
つまり長生きする人が増えるため平均寿命は延びますが、最長寿命自体は変わらないというもの。
もう1つは、「死亡率の延期」と呼ばれる傾向です。
これは人々が健康的に過ごせるようになった結果、高齢者の平均余命(あと何年生きられるか)が延びる現象です。
この傾向が見られる場合、死亡率の圧縮のように高齢者になっても死亡率が急激に上昇しないため、最長寿命は更新されていくことになります。
研究チームの分析の結果、歴代のほぼすべての出生年代グループにおいては「死亡率の圧縮」が見られました。
平均寿命は延びているものの、高齢者の死亡率が急激に上昇し、最長寿命は変化しなかったのです。
ところが、1910~1950年の間に生まれた出生年代グループだけに「死亡率の延期」が見られ、ゴンぺルツの法則を適用した場合の最長寿命が5年ほど伸びると推測されました。
このグループの人々は2023年現在、73~113歳であるため、彼らが推測どおり最長寿命を更新するかはまだ分かりません。
それでも分析結果が正しければ、人間は生物学的な寿命の限界にまだ到達していないと言えます。
マッカーシー氏は、「今後数十年の間に、長寿記録が大幅に伸びる可能性があります」と結論付けました。
また研究チームは、この年代グループで死亡率の延期が見られた理由について、第二次世界大戦後の医療の進歩や公衆衛生政策の改善が関係していると推測しています。
これらの要素は、当時、既にある程度の年齢に達していた人々の平均寿命を延ばすのを助け、その時代以降に生まれてきた人々には、平均寿命を延ばすだけでなく、最長寿命を延ばすよう助けてきた可能性があるのです。
とはいえ、第二次世界大戦後以前は、長期にわたって最長寿命が変化しておらず、「死亡率を下げる要素や社会的変化」のすべてが最長寿命を更新するのに役立つわけではないこともわかっています。
そのため死亡率の延期を引き起こす要素を特定し、その変化を生じさせられるなら、その後に生まれる世代は、最長寿命をさらに延ばしていくかもしれません。
今回の研究はあくまで統計的な調査であり、人間の健康や寿命に関する生物学的な観点は含まれていません。
しかし人間の寿命の生物学的な限界にまだ先があるとすると、それはどこなのか? また寿命に幅が生まれる要因はなんなのか、興味深いテーマがいろいろと生まれそうです。