NASAの火星探査機がクレーターの底で「生物の骨」のような構造を発見!
NASAの火星探査機キュリオシティが地球から打ち上げられたのは2011年11月26日のことになります。
キュリオシティはその後5億6000万kmの距離を旅し、2012年8月5日に火星に着陸。
それから10年以上にわたり、小型車サイズのキュリオシティローバーは火星のゲールクレーターの内部を探査してきました。
ゲールクレーターは今から35億年から38億年前に隕石の落下によって形成されたと考えられており、干上がってしまう前は数千万年にわたり豊富な湖を形成していたと考えられています。
実際の探査でも、この地域で大量の水が流れていたことを示す堆積層が確認されています。
しかし2023年の4月1日に送られてきた岩石写真の奇妙さは他と一線を画するものでした。
新たに送られてきた写真に写っていたのは一定の間隔を置いて並ぶ「魚の骨」のような構造が岩から突き出しているものでした。
宇宙生物学者のナタリー・A・カブロール氏はこの奇妙な構造をいち早く発見した1人であり「20年間火星を研究してきたが、これは私が今まで見たなかで最も奇妙な岩である」「顕微鏡画像が待ち遠しい」とコメントしています。
また興味深いことに魚の骨のような構造は1カ所だけでなく、写真撮影された複数の岩に点在していることもわかりました。
現在のところ、この奇妙な構造がどのような仕組みで作られたかは断定できない状況ですが、最新の画像は重要なヒントになりました。
新たに撮影された画像からは、突起部分が積み重なった地層に沿うように存在している様子がみてとれます。
そのためカブロール氏は、柔らかい部分と硬い部分の両方を含んだ地層が火星の風によって浸食され、硬い部分だけが突起のようにして残っていると予測しています。
風が原因であるならば地球でも同じような構造がみられてもよさそうですが、実際にはあまり見かけません。
その理由はおそらく環境の違いにあると考えられます。
火星の大気圧は地球の0.57%であり、重力も3分の1しかなく酸素濃度も極めて僅かです。
そのため火星の風化は地球よりも遥かに緩やかであり、酸化が起きにくく、地球ではポッキリいってしまいそうな構造も長期間に渡り保つことが可能です。
火星特有の環境が作り出す奇妙な構造はたびたび発見されており、たとえば2022年5月17日に撮影された写真には地面からニョロニョロと海藻のように伸びる岩も見つかっています。
この奇妙な構造も現在では火星環境特有の風化による作品と考えられています。
具体的には、遠い昔に火星の地層のある部分が縦方向に侵食され、そこにセメントになるような硬い性質の泥が流れ込んだことが原因とされています。
長い年月によって周辺の柔らかい地層は全て削り取られてしまいましたが、硬いセメント部分だけが残りました。
2022年2月に撮影された写真にはサンゴのような花状の構造が映っている様子も確認されましたが、これも地層の中で形成された硬い鉱物結晶だけが残り、周囲の柔らかい地層がはぎとられた結果だと考えられています。
これまでローバーが10年以上かけて走破した距離はわずか29㎞ですが、約40の岩石と土壌のサンプルを分析し、ゲールクレーターには少なくとも数千万年間もの間、豊富な液体の水に満たされ、水の中には生命誕生に必須な栄養素が含まれていたことを明らかにしてきました。
現在、火星では後続のパーサヴィアランスが稼働していますが、キュリオシティもまだまだ活躍しています。
地球では見ることが難しい、火星の環境でなければ形成されない珍しい岩は、火星特有の景色を楽しませてくれます。